なぞなぞテレビ
180222
「最強のクイズ王が選ぶなぞなぞを解いてみたい」というテーマのテレビ番組の収録に参加してきた。
ただしこのテーマは編集後の話で、当初オファーがあった時のテーマはもっと単純に「最強のクイズ王が選ぶなぞなぞはどんな問題だ」というものだった。
なぞなぞはクイズに似ているが、でも違うものである。
だから僕は厳密にいえば門外漢なのだ。だから収録当日まで自信も乗り気もなかった。
いくらクイズ王が集まったところで「最高の1問」なんか果たして決まるのか、という考えは僕だけではなくどうやら僕以外の3人(深澤岳大、日高大介、伊沢拓司)も思っていたようである。
「会議」は3時間以上続いた。結論から言うとその「最高の1問」は見つかったのだった(笑) 結論が出たことそれ自体に僕ら自身も驚いた。
もちろん、僕らがすべてのなぞなぞに触れていてその世界を熟知しているわけではないから、その夜の会議における「最高の1問」であるということは確認しておきたい。
もしメンバーが同じ僕ら3人であっても翌日には違う1問を最高の問題として推すかも知れないのだ、それぐらい脆弱なものではあるとしても、何とかその会議における「最高の1問」にはたどり着いた。
この「会議」自体はホントに面白かった。メンツも実によかった。みんなちゃんとプライドを持って問題と意見を出してくれた。あれはあのままノーカットでネット配信してもいいぐらいだと思う。
各自が10問の「候補」を持ち寄ったのだが、実際にはその場でもっといい問題を思い出したり作ったりしたので全体としては50問以上が俎上に載った。
当然僕も10問を提出していた。というわけで、当日僕が提出した「『最高の1問』の候補」(笑)をここで紹介してみようと思う。
とりあえずまずは出題してみようか。何問できるかな?
1. 母には二度あひたれども父には一度もあはず。これは?
2. 前から読んでも後ろから読んでも同じ名前の色は?
3. 英語のなぞなぞです。Tで始まりTで終わり、中にTが入っているものは?
4. 急行電車と各駅停車。性別があるらしいんですが、男性はどっち?
5. 1本のマッチ棒があります。これを使って山手線の駅名を1つ作ってください
6. 「?」→煮付け→焚き火→団子 「?」に入るお菓子は?
7. 電線にスズメが止まっていた。猟師が鉄砲で撃って弾は見事スズメに命中したがスズメは電線から落ちなかった。なぜ?
8. ウルトラクイズの成田空港でのジャンケン。最初に何を出す人が一番多かった?
9. アイスクリーム、チーズケーキ、チョコレート。どーれだ?
10. とてもうるさいけど後ろに「ト」をつけると静かになるのは「サイレン」ですが、後ろに「ん」をつけると一気に時間が20年経ってしまうのはなーんだ?
どうでしょう。
今回、「最高の1問」の候補を10問、と頼まれたのだけど実はそんなに思い出せず、「まあまあかな」というのを半分ぐらいは足してある。
もし長戸勇人セレクトでの本気の「候補」を選ぶとしたら、それは「1」「5」「7」「9」「10」の5問である。
ではそれぞれの問題の正解、そして解説を。
1. 母には二度あひたれども父には一度もあはず。これは?
日本初のクイズ本は何か、というと答は室町時代までさかのぼる。
日本初といわれるクイズ本、つまり、なぞなぞ本は何と勅撰だったのだ。
それが室町時代に出された『後奈良院御撰何曾』(1516年刊)で、後奈良天皇が集めた172問のなぞなぞが載っている。
どんな理由でそこにたどり着いたのかさっぱり忘れたが、僕は大学時代に図書館で調べ物をしていた時にこの問題を知った。
「会議」当日は日高が問題例として、「ママやパパには2回会うけど、母や父には1回も会わないものはなーんだ?」というなぞなぞを出したところに僕がかぶせてこの話をした。
この2問とも、実は正解が同じなのである。つまり「唇」だ。
日高の問題は現代のものだからわかりやすい。「mama」や「papa」と言うときには唇は必ず合うが、「haha」や「chichi」の場合は合わないからね。
じゃあ後奈良先輩(もうクイズ界の縦のつながりの中に入っている(笑))の問題はどうか。これを現代語訳すると「母には二度会うが、父には一度も会わず」となる。
これで正解が「唇」ということはどういうことか。つまりここから、室町時代当時の「は行」は「ふぁ行」だったということがわかるのだ。
つまり、「父」は「chichi」だったとしても、「母」は「fafa」と発音していたのである。
このなぞなぞ、日高が出した問題を踏まえると、500年の時を超えて偶然にも答が一致する凄まじいものだということがわかる。
だって「ママ」や「パパ」が言葉の中に存在せず、しかも「母」が「haha」だった江戸時代には成立しえなかったからだ。つまり存在そのものが冬眠状態となっていて、戦後の「ママ」「パパ」の言葉が普及してから問題の形と正解だけを同じにして復活したと言えるのである。
なーんて、こんな話が当日の「会議」では出されまくってたのよ。そら3時間超えるわな。
2. 前から読んでも後ろから読んでも同じ名前の色は?
なぞなぞなのであくまでもメジャーな色の名前でないといけない問題だ。
正解は「赤」である。「あか」ではなく「AKA」と書くのがミソ。単純だけど何でもつい平仮名で考えてしまうので正解に辿り着きにくい問題。
3. 英語のなぞなぞです。Tで始まりTで終わり、中にTが入っているものは?
「会議」では伊沢も出していたけど、英語のなぞなぞは中学生以上の人にはいい反応が返って来ることが多い。向こうの子供たちに出す問題のレベルに限るけどね。
ともあれこの問題は英語圏ではベタ問題らしい。問題文がエレガントなので僕は好き。
正解は「teapot」。中に入ってるのはtea(=T)だよね。
4. 急行電車と各駅停車。性別があるらしいんですが、男性はどっち?
これは僕の中学校で流行った問題(笑)で、正解は「急行電車」。
なぜなら各駅停車と違って急行電車は「えき(駅)を飛ばすから」。
考えた一瞬の後に女の子が「もう!」というのがたまらなかったなー。しっかし、くだらねー。さすが中学生という感じだ。
しかしその後、いろいろ経験して行くうちに、いや、男性とは限らんぞ、と思ってしまうことしきり。これはひょっとしたら「正解はなし」が正解かも知れない。(あかんやん)
5. 1本のマッチ棒があります。これを使って山手線の駅名を1つ作ってください
マッチ棒パズルも場合によってはなぞなぞの範疇に入る問題もある。その中で一番難しく面白かったのがこの問題。
置かれている1本のマッチ棒をおもむろに手に取り口に近づけ、そのまま噛んで一言。正解は「噛んだ!(神田)」。
6. 「?」→煮付け→焚き火→団子 「?」に入るお菓子は?
これは関西のテレビ番組で出題されたなぞなぞ。オリジナルは「団子」を答えさせるものだったが、こっちの方がちょっとだけ難しくなるので改作した。
日高もこの問題を自分の候補に挙げてたんじゃなかったかな。
正解は「おこし」。続けて読んだら歌の歌詞になるよね。『ももたろう』だ。
7. 電線にスズメが止まっていた。猟師が鉄砲で撃って弾は見事スズメに命中したがスズメは電線から落ちなかった。なぜ?
このなぞなぞ、55歳以上の人なら誰でも知ってるんじゃないかな。1970年代後半に日本を席巻した「ナンセンスクイズ」の先駆けの問題である。
ラジオ番組発のこの問題が大ヒットし、ここから最終的には『電線音頭』や「デンセンマン」というキャラまで生むことになったのだ。
このなぞなぞの正解は「スズメに根性があった」である。この問題から「根性スズメ」という言葉まで生まれた。
ちなみに『電線音頭』のもとになったなぞなぞは「根性スズメ」の第2問である。
「電線にスズメが3羽止まっていた。猟師が真ん中のスズメを撃って弾は見事命中したがスズメはやっぱり落ちなかった。なぜ?」で、正解は「左右のスズメが一生懸命支えていた」だった。
だから『電線音頭』の歌詞は「スズメが3羽止まってた」なのだ。
8. ウルトラクイズの成田空港でのジャンケン。最初に何を出す人が一番多かった?
これは僕のオリジナル問題。
正解は「声」。なぞなぞの王道のような問題。
9. アイスクリーム、チーズケーキ、チョコレート。どーれだ?
僕が人生で出会った「最高の1問」といったらこれ。これさえあればあとの9問はどうでもいい(笑)
これはラーメンズの小林賢太郎さんが作ったなぞなぞで彼の名前を冠した番組で発表されていたものである。
オリジナル問題は「卵、くるみ、チョコレート。どーれだ?」だった。ちょっとわかりにくいかなと思ったので改作したけど、でもやっぱりオリジナルの方がエレガントだ。
この問題文だけではなぞなぞは解けない。つまりこれは「とけないなぞなぞ」なのだ。つまり正解は「チーズケーキ」。アイスクリームもチョコレートも溶けるからね。
「会議」ではこれに日高がかぶせてきて(クイズ屋の飲み会にしても会議にしてもこの「かぶせ」が縦横無尽に飛び交ってくるのが面白い。人を踏み台にしてでも大きな笑いを取りに来るのである)、「とけない」だから「と」と「け」がないということで「アイスクリーム」でも正解ですね、とぬかしてきやがった。
くそー。たしかに!
10. とてもうるさいけど後ろに「ん」をつけると静かになるのは「サイレン」ですが、後ろに「ん」をつけると一気に時間が20年経ってしまうのはなーんだ?
これは3年ほど前に僕が思いついたオリジナルのなぞなぞ。
もちろんさっきも書いた通りなぞなぞは同時発生することもあるので、僕よりも先に発表している人もいるかも知れないけど。でも思いついたときは小躍りしたなー。
正解は「新生児」。「ん」をつけると「新成人」になって一気に20歳も年を取るから。
以上が「候補」の10問。あなたは何問できたかな?
今回この作業をしてわかったことは、「なぞなぞはタイムカプセル」であるということだった。
なぞなぞは基本的に子供たちを対象にしてるので、極めてわかりやすいものであったり、生活に根ざした内容のものが主流となる。
例えば、僕らの子供の頃によくあったなぞなぞの、「上は大火事、下は大水。なーんだ」と「上は大水、下は大火事。なーんだ」という2問。
当時の子供にはまだ理解できたのだが、今だったら答を聞いても「ふーん」という感じになるだろう。
正解は最初の問題は「ランプ」で、後ろのは「風呂」だ。
ランプの方はひょっとしたら理科の実験で使うアルコールランプをイメージできるだけマシかも知れないが、風呂に至っては下で火を焚くとか、どんな時代なんだよ、ってツッコみたくなる。
給湯器の中に火はついていても、それはさすがに浴槽の下には置かれていないだろうし。実際僕でさえもドラム缶で作られた五右衛門風呂に入ったのは南米で数度あるだけであって日本では一度もないのだ。
しかしながら昔の子供にはこの問題なんかは、「あ、そうかー」となるわけで、それはすなわち当時の生活スタイルとこのなぞなぞが直結しているからこそなのである。
先に出した「唇」の問題しかり、「おこし」しかり。「ふぁ」の発音であるとか、「おこし」というお菓子が一般的だった、などということがなぞなぞの形をもって表現されているのである。まさに「時代」がフリーズドライされているのだ。
僕が「なぞなぞはタイムカプセル」と呼ぶ所以はまさにここにある。なぞなぞを通じて作問された時代がリアルに感じられるのである。
なぞなぞであってもクイズの問題であっても、出会うタイミングで印象が左右されるもの。だから全員が納得できる「最高の1問」は見つかるはずがないのである。(でも見つかったんだけどね(笑))
だからこれを読むみなさんにもベストオブがあるはず。もし僕のクイズライブなどに来られた際には、ぜひあなたの「最高の1問」を出題してください。
ではまた来週の木曜日。