第16回ウルトラクイズのこと つづき
170727
さて『第16回』のドーム予選の話。
僕ら「RUQSOB&ウルトラ13th.&仲間たちチーム」は、前夜は恒例のステーキパーティを敢行し、そしてその日を迎えた。
第1問の発表は朝の7時である。(あれ?8時か?まあいいか)
しかし6時過ぎにはドームの入場口の前には多くの人が集まっていた。
そして第1問発表―。
問題
「ニューヨークの自由の女神像 STATUE OF LIBERTY がアメリカ合衆国の硬貨に描かれたのは1986年100周年記念の時が初めてである」
なんだこの問題。というのが第一印象だった。
この頃になると挑戦者側も、こと自由の女神に関してはマニアと言えるほどの知識があった。だから問題も昔のような単純な問題文にはならなくなっていた。
まあゆっくり考えるか。何かわかったら教えてな。
と言って僕はみんなと一旦別れた。
僕は入場口からかなり離れた場所に設置されていたテントへ向かった。
小学校の運動会で来賓が座る、まさにあの白テントだ。
テント下にはすでに能勢一幸がいた。
能勢だけではない。そのテントには歴代のウルトラクイズのチャンピオンたちがいた。
歴代チャンピオンは必ず先に召集をかけられるのだ。
その当時は習慣として特に何とも思わなかったのだけど、今考えてみると何でそこに呼ばれたんだと思う。
というのも、昔はオープニングセレモニーに歴代チャンピオンが勢揃いしてオープンカーに乗って登場するというのがおきまりだった。しかし『第16回』ぐらいになってくると車に乗るのは前回のチャンピオンだけとなっていたからだ。
そりゃそうだ。このときはまだウルトラが打ち切りになるとは誰も考えていなかったので純粋に演出の面から考えると、「歴代チャンピオン」がどんどん増えていったら、そのうちオープンカーではなくマイクロバスに乗って現れなければならなくなるからね(笑)
ということでディフェンディングチャンピオンの能勢以外は、結果的にはみんな服につける花をもらうだけの用事で呼ばれることになってしまっていた。
さて、そのテントに1人のオバちゃんが現れた。
(オバちゃんといっても出場者らしかった。つまり現在の僕より年下(笑))
彼女は能勢や僕に会うとちょっと興奮している様子。
二、三言葉を交わした後、彼女がささやくようにこう切り出した。
「私の知り合いに古銭商がいて、その人が昔の女神のコインを見たと言ってるの。」
とっておきの情報のような雰囲気でこう言った。
「だから『×』よ」
しかしウルトラクイズでは何でこんな面白い人ばっかり僕のそばに寄ってくるのか(笑)
能勢と僕は顔を見合わせた。
おいおいこれはすごい情報やで。なんや今年も1問目は楽勝か。
オバちゃんがどこかへ行った後、僕と能勢はミニ作戦会議を開く。
これ「×」やで。ですよねー。みたいな会話をしながら。
そうこうしているうちに僕らは別れることになった。能勢はセレモニー参加のため、かなり早い時間に拘束されるからだ。
彼はスタッフに導かれてドームの中に入って行った。
「じゃあ×のスタンドで会おう。」
それが能勢と交わした最後の言葉だった(笑)
まだ時間があったので僕は仲間のところへ戻る前にドームの周辺を散歩した。
ここでたくさんのクイズの知り合いに会った。
大学のクイズ研は別として、クイズの手練れはたとえ正解がわかっていても1問目はギリギリ入場する。理由は様々だろうがこれもウルトラあるあるである。
だからたくさんの知り合いに会えた。
で、ここで出会った人たちだが、判で押したようにみんな正解は「○」だと言う。
「え? 『×』ちゃうの? そう言うてる人がおったで。」
「でも『○』ってみんな言ってますよ。」
口々にこう言われた僕の不安はチームと合流した時に最高潮に達した。
「おー、待ってたで。答えは『○』らしいで。」
「えー、でも僕にも情報があってね。」
僕はそれまでの話を伝えた。
「ほんまかいな、それ。」
誰も僕の意見をマトモに相手にしなかった。
そうこうしているうちに入場制限時間まであと20分となった。
「とりあえず僕に情報を提供してくれた人を探してみるわ。みんなギリギリまで待ってて。」
そう言い残して僕は、まだ多くの人で溢れていたドーム周辺をダッシュで走り回ることになった。
たくさんの人がいると言っても出場者の大半はすでに中に入っている時間だし、大体ウルトラクイズとは関係ない人も相当いるはずだ。
「こんなん一周しても見つからんで。オバちゃんの顔をちゃんと憶えてるのかもわからんのに。」
と一人でブツブツ言いながら僕はドームの周りをダッシュし続ける。
これで見つかったら奇跡やで。と思ったその時、まさに奇跡が起こった(笑)
「いたー!」
彼女は僕の顔を見て、あっという顔をした。
「さっき話した人ですよね!」
息を切らせながら僕は言葉を発した。
「は、はい。」
「お知り合いの古銭商の人のことですが、何年ぐらいに発行されたコインって仰ってました?」
「それが連絡がつかなくてはっきりしたことはわかってなくて、でもたしか見たとか・・・」
「ガ、ガセやー!」
僕は挨拶もそこそこに彼女から離れ、さらにドームの周りを走ってチームの所に戻って行った。
あ、先に断っておくが、彼女は僕らを騙そうとしていたのではない。これは間違いない。本気で「有力情報」を教えてくれたのだった。
ただ、それが「有力止まり」だっただけだ(笑)
「これ絶対○やで!」
興奮している僕に対して
「せやからそう言うてるやん。」
みんな冷静だった。
よし、とりあえず今年も1問目は突破やな。
みんなと笑顔で話しながら制限時間ギリギリで僕らはドームの中に入った。
席に着き楽しく仲間と話している僕だったが、なんか重要なことを忘れてるような気がした。
なんやったっけ?なんかあったような気が。思い出せんのはつまらんことか?
あー!能勢やー!
すっかり忘れていた(笑)
ガセ情報の顛末を能勢だけはさっさと隔離されたので全く知らないのだった。
やばーい!このままやったら能勢を殺してしまう!
携帯電話も何もない時代である。
どうやって能勢にこの情報を伝えようか。
まさかスタッフに言うわけにもいかないし(笑)
もうこうなったら、能勢がオープンカーでパレードをしている瞬間にやるしか手はない! ってダラスのケネディか。
オープニングセレモニーが始まった。
前回優勝者として能勢がオープンカーに乗って登場してきた。
オーロラビジョンに映る能勢はビッグスマイルである。
それを見て申し訳ない気持ちになる自分と、笑いを噛み殺さずにいられない自分がいた(笑)
でもとにかく全力で能勢に伝えないと。
僕が「○」側にいるのがわかると、奴なら瞬時に全てを理解するだろうから。
「能勢~‼」
僕は自分がウルトラチャンピオンであることを忘れているのか、というぐらいに声を張り上げた。
「能勢~!こっち見ろ~!」
こんな時にタイミング悪く能勢がこっちの方向に手を振った。
これじゃただの能勢ファンやんけ(笑)
そしてオープンカーはマウンドに到着。
後のやり取りはオンエアの通りである。
「×」に走る能勢の後ろ姿を見ながら僕は、
「能勢スマン~。そっちはね~、間違いなんだよ~。」
とちょっとしたメロディをつけて心の中で叫ぶしかなかった。
もうこのあたりになると笑いを抑え切れない自分ばっかりだった(笑)
悪い奴やなー。
当然のことながら1問目の正解発表の時のバカ喜びの後は、能勢のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまっていた(笑)
そして僕も2問目でさっさと間違えて同じ敗者になってしまった。
後日談、というか先週(笑)聞いた話だと、パレードの最中にスタンドを見回した能勢には、「○」にいろんな人がいるのはわかってたらしい。
それでも「×」に行く律儀さが能勢っぽいよなあ。
結局はあの問題が彼にとっては最後のレギュラーのウルトラの問題だったわけだから残念だろうと思う。
視聴者の皆さん、能勢のミスは能勢のせいじゃないのよ。わかってあげてね。
まあ僕のせいでもないけど(笑)
これが『第16回』の話。
四半世紀の時を超えて能勢の名誉を回復させたいと思って書いた今回のコラムでした。
あ、おまけ。
今回の「Scarlet Factory」のイベント申し込みのページに使われている写真は、能勢が間違えてガックリしている瞬間と同じタイミングで写されたものです。僕がいかに彼のことを気遣ってないかわかる貴重な1枚です(笑)
ではまた来週の木曜日。