クイズ企画についてのあれこれ その1

180215

1月に東京・神楽坂にオープンしたクイズ専門のお店「SODALITE」で、毎月1回(2日間)、クイズ企画を提供することになった。

毎回毎回、よくクイズ問題が作れますね、という声は耳にするが、毎回毎回、よく新しいクイズ形式が考えられますね、という意見はあまり聞かない。
そりゃそうか、そんなところに目が届くのはよほどのマニアックな連中だろうからね。
SODALITEはあくまでもクイズビギナーとちょっとその先の人を主な対象にしているからそこまでマニアックにはならないのである。

僕の中学高校時代といえばクイズは解くばっかりだった。たしかに中学の教室に早押し機を持ち込んでクラスのみんなにクイズを出していたことはあったけど、それでも純粋な早押し問題を淡々と出すだけで、クイズ問題をゲームの動力として扱うのはまだまだ先の話だった。

オリジナルのクイズ形式を伴って本格的な出題をしたのは大学のクイズ研(RUQS)に入ってからである。それが1985年のこと。
それから関西クイズ愛好会、クイズ部、(東京・上方)クイズ倶楽部と主戦場を移して、かれこれ四半世紀以上もクイズ形式を作って来た。
新しいクイズ形式を考えるのは得意ではあったので、今ではいろんな人がパクってスタンダードにもなっている形式などを考えてはサークルなどで発表していた。

しかし2015、6年ごろのことだ。全然面白いクイズ企画が思いつかなくて困ってしまったことがある。この時初めて「才能」とは枯渇するものなのかも知れないと真剣に考えた(笑) 何で昔の自分はあんな湯水のように新形式が思いついたんだろうと疑問を持ってしまったほどだ。

でもそれは間違いだった。これは当たり前のことなのだけど、単に「考える習慣」がなくなっていただけだったのである。
能力を開花させるのは別のものだけど、能力を持続させるのは「習慣」が大きな要素となる。
これは解答者でもそうなのだ。クイズを頑張っている現役の連中にはわからないだろうけど、僕らみたいに「昔ハードにやっていた人」は得てして「最近押せなくてねえ」みたいな悩みを抱えてしまっている。「最近おしっこが近くてねえ」みたいなノリになっているのが情けないのだが(笑)

しかしそれらは能力の低下そのものより、解答する習慣がなくなったことによるものの方が大きいのだと僕は思っている。
たとえば僕でも本格的に解答者としての能力を戻すならやっぱり半年はかかる。でも逆に考えたら、半年ちゃんとリハビリしたら、少なくともテレビで恥をかかない程度までには戻るとは思うのだ。
だから同世代の連中も押す習慣さえ持てれば、みんなまた昔のように輝きだすと本気で思っていたりする。そして僕はそういう場をたくさん作りたいと目論んでいたりする(笑)

話を戻そう。
最近、クイズ形式を考えることが増えて、昔の感覚が戻ってきた。
ちょっとずつではあるが、新しいものを生み出すことができるようになったのである。
軽い気持ちで受けたSODALITEの仕事だけど、まさかこんなことになるとは、という感じだ。

誰もやったことがないクイズのルールをいきなり見せて解答者を慌てさせたい。というのが僕の目指すところ。
どうやったらそのクイズは攻略できるのか、それを瞬時に考える能力と習慣をゲストにつけてみたいと思っている。
実はその能力こそが、オリジナルのクイズ形式だけで週に2回(各4時間半)の例会を続けていたRUQSのメンバーがウルトラクイズを3連覇した直接の原因だったりするのである。

ともあれ、クイズ企画を作ることは、やはりクイズの解答法と同様に奥が深い。
サークルの例会を担当したいとか、クイズ大会を開催してみたい、と思う人などに向けて、今回を含めて何回か「クイズ企画」について書いてみようと思う。あくまでも気が向いたときに(笑)

あ、ただし、解答者としてブレイクしたい人はこういうのは読むだけで実践しちゃダメよ。
あなたのやることは企画を作ることではなく、あくまでも問題を答えることだから。
問題を作る暇があったら問題を解きましょう。クイズ企画を考える暇があったら、誰のでもいいからクイズ大会に足を運びましょう。
アウトプットはまだ早い。インプットが最優先だ。
なので、解答者としては満足してしまった人やクイズを提供する面白さに目覚めてしまった人だけが直接的な参考にしてほしい。

ではまず今回はクイズ企画の根っこの話をちょっとだけしてみよう。
僕が企画を作るときに手本にしているものの話だ。

僕がクイズ企画を作るときに常に念頭に置いているのは、「フレンチレストランのフルコース」である。
アミューズに始まってデザートまで。その間にオードブルやスープ、魚料理、口直し、肉料理、チーズなどが順々に出て来る、あの「フルコース」である。

シェフは旬な食材を使って、いかに客を満足させるかに腐心する。
最初の皿から最後のコーヒーまでをまるで1つの物語を紡ぐかのように組み立てる。
味の濃さ、使うソース、食材そのものなどが連続しないようにするのは基本中の基本。例えば、口直しのシャーベットなどは魚料理の余韻をぶち壊さず、そうであって次の肉料理のための準備をさせる。そういう材料を使わなければいけないのだ。
そしてその料理のいずれもが一級品の美味さでないといけないし、さらには、それらが出されるタイミングも完璧でないといけない。
このどれが欠けてもダメである。全部をクリアできて初めて高いカネを払うに価値があるフルコースとなる。

これはクイズの企画に応用できる、いや、応用しないといけないと僕は常々思っているのだ。
僕はもともと大学時代に足掛け4年、京都の某ホテルのフレンチレストランでアルバイトをしていた。ギャルソンである。
『第13回ウルトラクイズ』では南米旅行から帰ったばっかりの風体だったのでそんなでもなかったが、ちょろっと映る『第12回』や、『アタック25』での髪型で襟足や耳上を刈り上げているのはそのせいなのだ。(って誰もわからんか(笑))
だからフレンチのコースでクイズ企画の組み立てを考えるのは僕的にはわかりやすかったのである。

いろんなクイズの企画や大会に参加して思うのが、多くの人がこの「全体の構成」または「世界」をないがしろにしているということである。
1つ1つのクイズ形式はたしかに面白いんだけど、同じようなものが続いたり、大ネタの次に大ネタが登場したりして、せっかくのクイズで「胃もたれ」の状態になってしまうことがある。それぞれのクイズが面白いだけにもったいないことこの上ない。
同じクイズ形式や問題を使っても、やり方、出し方、順序、それのどれかまたは全部を変えるだけで、もっと全体が面白くなるのにな、と思ってしまう。

僕がひょっとして、と思っているのは、そんなイマイチ残念なクイズを提供する彼らはちゃんとしたフレンチのフルコースを食べたことがないのではないか、ということである。
フレンチだけではない、懐石料理のコースでもいいのだが(経験上、中華とイタリアンのコースはあまりクイズ企画の勉強にはならない。ちょっと違う)、ただ、それらをバカバカ食べるのではなく、1つ1つの料理に対峙する時にシェフの作る味のみならず世界観までも考え、感じながら食べてみてほしい。
フルコースなんて滅多に食べないものだ。だからこそそれぐらい深く受け止めてもいいと思うのである。

これは特に20代の若手に伝えたいことだったりする。
解答者として活躍する、というならそれでもいいが、もし大会を企画したり、サークルを立ち上げたりしたいと思っているなら、この一流料理人のセンスや感覚をぜひ肌で感じて欲しい。
経験は若ければ若いほど効果が大きいと僕は信じている。
その経験を自分なりに解釈して、クイズに応用してみて欲しいのだ。

ちなみに、SODALITEの「スタンダード」や「ビギナー」では3時間で7つのクイズを提供することにしている。
毎回、どういう料理でゲストを驚かせ喜ばせるかを僕は真剣に考えている。
この作業は、さっきも書いたように自分の才能を磨くとても大事なものだと思っている。だから僕を含めたその場にいる全員が満足するものにしたい。

味わってみたい方はぜひお越しください。

ではまた来週の木曜日。