クイズ企画についてのあれこれ その3

180830

今回は珍しく、本の紹介をしてみたいと思う。
それも、クイズの企画の「参考書」である。

これまでクイズの問題集やクイズそのものに対するノウハウものは世に何冊も出ている。『クイズは創造力』シリーズもその1つだ。(と強引に宣伝してみる)
しかしながらこれらは全て「クイズを解答する」サイドのものであり、「クイズを出題する」という側の参考書というのはなかった。

存在しない理由はただ1つ、需要がないから、である(笑)
身も蓋もない結論なんだけど。

だいたいがクイズをプレーするにあたって常に何か形式を凝って練ってやろうとするのは少数である。これは昔からそうだ。
僕は意識する側に立っていた。こればっかりは最初に所属した立命館大学クイズソサエティー(RUQS)の「流派」に感謝しなければいけない。
このサークルでは「自分で企画と問題を考える」というのを例会での原則としていたからである。もちろんそれを逸脱したところで何の罰則もなかったのだけど、常にこのオリジナリティーという意識が頭の中に置かれるようになったのはこのサークルの影響であるのは間違いない。
そう考えるとこの流れを作った初代会長の稲川良夫センパイには感謝してもし切れないのだ。
まあ、たまたまだとは思うけど(笑)

なので当時のRUQSのDNAを受け継ぐ僕や、また僕の影響を受けているクイズ倶楽部の連中や関西の謎のクイズ集団「みけねこ堂」などもやはり企画のオリジナリティーを大事にしている。
より良いものや、みんなが楽しんでもらえるものを作ってみたい、または、作ってみようととにかく腐心しているのがわかる。

ただ面白いのは、先述した僕が主宰していた「クイズ倶楽部」というクイズサークルでは、メンバーの誰もが少なくとも何年または何か月に一度は企画を担当していたのだが、その担当日が近づくと企画をやっている夢を見てしまうとのこと。しかも「失敗する夢」なのだそうだ(笑)
しかもこの夢を見ているのは1人や2人ではないというのが面白いところだった。
そこまでプレッシャーになっとるんかい、とツッコミたくなるが、実際のところはフロイト的に解釈すると、当日に面白いものができるからこその悪夢を見ていたということだろう。(あくまでも「フロイト的」ね。彼の解釈では夢と逆の価値のことが現実で起こるっぽいのでここではそう書いた。別に僕はフロイトの研究をしているわけで適当なことを書いてます)

でも実際のところ、クイズの企画を人前で発表するのは相当のプレッシャーがかかるものである。僕でさえいまだにソーダライトで毎月かなりのプレッシャーがかかってるんだから!
・・・いや、言い過ぎました。ちょっとしたプレッシャーがかかってる状態です。
・・・いや、ウソついてました。全然プレッシャーはかかってません。

でも、プレッシャーこそが洗練のもとになるのでそれは全然悪いことではないのだ。
だからクイズの企画を打つ人がプレッシャーに押しつぶされそうになるのは、とても健全なことで「鍛えられている」と解釈するのが正しいのである。

ところで、クイズ企画を組むにあたって大事なことは全体のテーマや構成や流れを意識することと以前に書いた。そのときに例に出したのはフレンチのフルコースを考えるシェフの気持ちになる、ということだった。

今回紹介する本はそれとは全然違う分野のものである。しかしながら基本や軸や芯は同じであり、しかも微に入り細を穿った説明や解説が為されているものとなっている。
著者は大沢在昌さん。そう、作家の大沢さんだ。
そして、本のタイトルは『売れる作家の全技術』。
角川書店が出版している。今から6年ほど前に出された本である。

この本の内容はタイトルから推して知るべしで、それについて僕がいろいろと言及することは必要ないだろう。
とにかく徹頭徹尾、小説というものを読者ではなく作家の観点から考察している。これは僕らがクイズをあくまでも出題者サイドから考えていることに完全に通じる。

この本は小説を扱っているので、クイズのクの字も出てこない。(当たり前や(笑))
しかし、僕が以前にシェフのフルコースにたとえたクイズ企画の流れなどの曖昧な部分を、言葉を操るプロが理路整然と解説しているのだ。そんな風に読み取ることができるのである。
だからこの書を読むに当たって必要な能力もやはり「解釈力」ということになる。
今書かれているものがクイズにおいては何を意味するのか、それを感じながら読み進めないと話にならないのだ。

ということは、この本はクイズ企画の参考書でありながら、企画のビギナーの方々にとっては即戦力となるものとはなっていないのである。これが注意しないといけないところだ。しかしながら実はこれは僕が約30年前に書いた『クイズは創造力』と同じルールとなっていたりする。

『クイズは創造力』はたしかにターゲットが中学生ではあった。中学生が読んでクイズの面白さや奥の深さに触れてその先へ進みたくなるようにと思って書いた。これは間違いはない。
でもあれを読んだ中学生が、「そうなのかー」と知識として自分の中に入ってきたことはあっても、「なるほどそういうことか」というような、心にストンと落ちるというか、納得できることは少なかったのではないだろうか。
その理由は、読者の中学生のほとんどがクイズの初心者以下だったからである。
つまり、経験が足りない状態だったのだ。

クイズを今も頑張っていて、あの本をまだ持っているならもう一度ちゃんと読んでみてほしい。今度は多くの部分で「なるほど」と思えるはずなのだ。時間が経過しすぎているから理論的にも時代的にも今では遅れてしまったものもある。でもそれを含めても中学生当時に読み切れなかった部分が多く見つかるはずである。

そう、あの本は影響を与えるものであると同時に、将来には自分の位置を確認する内容にもなっていたのだ。もちろんその「確認書」としての意識を持って僕は書いた。だから説明過多にならないように、経験した者でないと読み切れないことを交えたりして書いたのだ。
クイズをそのまま続けた将来に読み返すと「そういうことか」と思ったり「なんだ、実は浅いな」と思ったり。そう感じて欲しかったのが実は本当の目的だったのだ。

大沢さんのこの著書ではクイズの企画についての言及はない。でも解釈力をもって読み進めると、これほどまでにクイズ企画を作る際に役立つものはないのがわかる。
もしこの本を読んで僕の言っていることの意味が理解できたあなたは、クイズ企画を打つ相当な手練れであると断言できる。
イマイチわからなった人は企画に対してはビギナーなのだと自覚すればいいだけだ。もし将来的に今よりももっとクイズ企画を作ったり出したりすることを上手くなりたいと思うなら、今はこれを読んで「そういうこともあるのかー」的に読み進めればいいだけだ。

また、クイズの企画に沿っている、ということは多分、シェフも読んでみればフルコースの構成なんかの参考にはなるはずだ。
それだけではない。絵を書いたり曲を作ったりするアーティストも建築家も学校の先生も会社のオーナーも解釈力をもって自分の環境に適合するように置き換えれば見事にそれぞれの参考書となり得るものである。

最後にこの本で、僕が最も面白く感じた部分の1つで、そして常に心に刻んでおかないといけないと確認した部分を紹介しよう。

それは「ミステリーを書く」というテーマでの一部分だ。
僕みたいに小説を書いたことがない人間にとって、ミステリー(推理小説)を書くことは至難の業に思える。なぜならば、物語のキーとなるトリックの部分が思いつかないからだ。(クイズの引っ掛け問題なんかはアホほど思いつくんだけど(笑))
さらに、たとえ思いついたとしてもこれは昔どこかで使われたのではないだろうか、と思うと怖くて発表できないはずなのである。

では小説のプロから見て、かつてどこかで使われたトリックを軸に進めた「新作」はどう扱うべきであるかというものなのだが、これは全て「アウト」なのだそうだ。

つまり大沢さん曰く、ミステリーを書く人は基礎知識が必要とのこと。古今東西のミステリー作品はメジャーであろうがマイナーであろうが全て読んでいないと話にならないということである。プロなんだから。だから「その作品でこのトリックが使われていたなんて知らなかったんですぅ」みたいな言い訳は絶対に通らないと。

これは彼は書いていなかったけど、この言外には、もしトリックが被ってそれを作品のマイナス点と指摘されて酷評されてもそれは100%自分が受け入れなくてはいけない、と解釈できる。

言われてみれば当たり前の話である。創作活動というのはそういうものなのだ。
いくら聞いたことがなかったとしても全く同じフレーズのメロディーを発表したらアウトなのである。それもその1つだ。
「着想を得て」とか「オマージュで」など、それを作り出すプロセスにはさまざまあるので一概には言えないこともあるが、肝となる部分が全く同じであればやはりそれはパクリ以外の何者でもないのである。

とにかくクイズの企画に興味のある人、今後もっと企画力を磨きたい人には絶対のお薦めの本である。ぜひ一度手に取って欲しい。

ではまた来週の木曜日。