得意不得意③
170504
今回は「形式」ではなく問題ジャンルにおける得意不得意の対策について講義してみよう。(いつから授業に?(笑))
ウソウソ。講義ではなく単なる僕の考え方ね。まあ講義みたいなもんなんだけどさ。(引き続きちょっと関東人入っています)
クイズ問題のジャンルでの得意不得意は誰にでもある。で、これが案外重要視されていたりする。「不得意ジャンルはどうしたらいいですか?」的な質問も少なくない。
しかしながら僕的には、クイズ問題、とりわけ早押しクイズにおいての不得意ジャンルは「無理に克服しなくてもよい」が結論だ。
このシリーズの①で「形式」での不得意がある場合は、ゼネラリストになるには何とかしないといけない、みたいなことを書いたけど、むしろゼネラリストを目指すべきである「早押しクイズの問題ジャンル」に対しては全く逆のことを提示するわけだ。これはどういうことか。
勝負においては「ジャンル」と「形式」とでは、より大きなくくりは「形式」ということになる。当たり前。これを野球に例えると、「アウトコースは苦手」と「左投手は苦手」という差になると思われる。
早押しクイズにおける問題ジャンルの得意不得意は、野球の打者にとっての得意コースと苦手コースという程度なのだ。確かに微妙な局面では大きい差が生まれるかも知れないが、しかしこれは絶対に乗り越えられないものではない。僕も息子も打者としてはインコースが大好物なんだけど、それでも打てない、打ち損じるインコースの球もあれば上手く弾き返せるアウトコースの球もあるわけだ。
しかしたとえば「左投手は苦手」というものはその打席中ずっと続くことから、事の深刻さに違いがあるのがわかる。そいつが完投しようものならその試合中ずっと苦手意識が続くことになる。もちろん、それであっても絶対に乗り越えられないものではないんだけど。
クイズに置き換えると、早押しクイズにおいていくら「自然科学問題は苦手」といっても正解できる問題が1問もないというわけではないはずだし、〇×が苦手といっても正解は重ねることはできる。どちらも絶対にダメということはない。しかしながら事の深刻さは後者の方が比較的大きいという話なのだ。
ただし「1日800問」みたいに問題を相当数答えている人は、心配しなくてもすべてのジャンルで満遍ない基礎力がついている。あなたの知識量は最低限ながらも十分戦える武器にはなっている。そこは安心して先に進んでほしい。
ではここから、不得意ジャンルは克服しなくてもよい、ということを掘り下げてみよう。
まずは、早押しクイズの勝負の現場で、自分の不得意ジャンルの問題が出題されたらどうするべきか、を具体的に考えてみる。
何をおいても大事なことは、「それでも正解を探る」という姿勢をキープすることだ。
これねえ、当たり前の話なんだけど、結構できていない人が多いのよ。
若手の連中で、こいつがこの先、大ブレークするかどうかって、実はここが見極めどころの1つだったりする。しかもちょっとした仕草でわかるものだから面白い。
早押しクイズの勝負って、シンプルに問題と対峙するだけではない。問題に対してのみ考えるのはペーパークイズであって(それでも例外はあるけど)、それ以外の場合はいくらでも「手」はあるのだ。
たとえば解答権が2着以下にもある場合なら先に押した解答者の誤答がヒントになる場合もあるし、1人解答権のスタイルであってもシンキングタイム中に出題者側がヒントを言ったり、隣の奴がブツブツ独り言を言ったり、下手したらギャラリーが何かこそこそ話をしているのが聞こえることも実際にあることはある。
つまり早押しクイズにおいては、あくまでも正解なり不正解なりスルーなり、それに応じたチャイムやブザーが鳴って初めて1問が完結するわけで、その瞬間まではすべからく「正解を求める」姿勢でないといけない。
だったらどんな仕草でそれがわかるのか。
これは、ボタンから指が離れているかいないか、なのである。
ボタンを持っていない側の手がハンカチを持って汗を拭こうが、派手な振りで注目を集めようが、ボタンを持っている指は決して離してはいけないのだ。
これ、簡単なことなんだけど、そいつがテンション高く正解することを最後まであきらめていないかどうかが一目でわかる重要な仕草なのだ。
このコラムはクイズ界隈でもあまり読まれていないと思うので、これを読んでいるクイズプレーヤーのみなさんは次の大会なり例会なりでちょっと確認してみればいい。難問やひねった問題でスルーになりかけるときに、指を離す人は必ずいるから。腕を組んだり汗を拭いたりね。そいつはすなわち「最後まで正解を追い求める」という姿勢が乏しいプレーヤーなのだ。
ではあなたはどうか。勝ちたい人なのか?適当に楽しみたい人なのか?前者だったら、どんなことがあってもボタンから指を離さないように心がけることだ。
僕がまだ20歳過ぎぐらいのころ、これを年上のクイズマニアの方に褒められたことがある。東京で行われたある大会に遠征したとき、早押しをやっていて難問だったのか何だったのかは忘れたが、出題後のシンキングタイムで僕も含めたみんなが椅子の背にもたれたことがあった。しかし僕だけは右手をそのままにしていたところ、運営側にいたその人が「長戸君だけ指を離してないでしょ。見習いなさい」(東京の若手に言ってるので、こういう表現になる)みたいなことを言ってくれたのだ。これは本当に嬉しかったし、ちゃんと見ているその人もすごいと思った。
とにかく、どんなことがあってもボタンから指は離してはいけない。
こういう簡単なことも、クイズ界では先輩が後輩に教えない。まあ先輩と称される人にその発想がないから伝えようにも伝えられないんだけどね。残念で情けない話ではあるが。
話は戻って、不得意ジャンルが出されたときの対処の2つ目。
それは、「気にしない」ということだ。
たとえば、「ここで映画問題かよー」とか絶対に思わないことだ。
その理由は2つ。1つは、そう思った瞬間に能力の扉が閉まってしまうから、もう1つは、自分の得にならないから、である。
「能力の扉が閉まる」は、これだけで1つの大きなテーマになるので改めてコラムで書こうとは思うが、かいつまんで言うと「気分が能力を左右させる」ということだ。「気分で能力が左右する」でも間違いではないんだけど、これは一段階レベルが低い話でちょっと違う。
「自分の得にならない」は、クイズの勝負における重要なテーマだ。早押しクイズではこの考え方が非常に大事なので、僕も事あるごとに持ち出している。
この場合であれば、「ここで映画問題かよー」と思うことは、自分にとってのみマイナスの感情であって、他のみんなにとってはプラスでもマイナスでもない。もしあなたの苦手ジャンルが相手に知られていたら、下手したらプラスの感情さえ与えてしまう状況となるはずだ。
ちなみにさっきの「ボタンから指を離す」も同様である。ボタンから指を離してしまうのは、決定的なヒントを聞いた時にヨーイドンとなるのに、出遅れるのは自分だけ、という状況を生む。やはりこれも「自分の得にならない」である。
とにかく不得意問題が出題されても気にしないことだ。正解できなくても、はいはいお次をどうぞ、というぐらいに流すのがいい。
不得意ジャンルへの対処、3つ目。
それは「どうしても相手にポイントをやりたくない場合は潰す」である。
これは形式上の制約や、状況によってはやりたくてもやれない、やってはいけない、というものではあるが、勝負のテクニックの1つとして紹介しておく。
簡単な話で、相手に正解を1つ積み重ねさせるのではなく、わざと間違えて自分の得点を1減らすという、「肉を切らせて骨を断つ」という方向のものだ。
挽回には2問必要なので、よほどの状況と自信がないとできないけど、僕でも数年に1度のペースでこの展開が目の前にやって来る。
荒唐無稽のように見えるこの作戦、実は場合によっては違う意味で遂行しないといけないものではある。それはどんな状況なのか。それはこのシリーズの最終回である、次回に書くことにする。
特殊なケースである3つ目を除いて、1つ目も2つ目もいずれも、早押しクイズの問題に対峙するに普遍的に必要な心得であって、特に「不得意ジャンル」に対するものではないことがわかる。ここからも不得意ジャンルに必要以上の意識を持っていくことに意味がなく、不得意ジャンルがあなたにとって思いのほかマイナスをもたらすものではないこともわかる。
さてこのシリーズではあと1つだけ、どうしても伝えておかなければいけないことがある。(遺言みたいだな)
しかしながら、今宵はここまでに致しとうござりまする。って古いか。
ではまた来週の木曜日。