得意不得意④
170511
このシリーズ最後の考察。
今回は「不得意ジャンル」ではなく、「得意ジャンル」について。
これまで接してきた後輩クイズプレーヤーの質問を思い出すと、「不得意ジャンルの対処法」がテーマになったことはあっても、「得意ジャンルの対処法」についてはまだ一度も尋ねられていない。
そりゃそうか。誰も得意なことをどうするか、なーんて普通は悩まんもんな。
しかし!実はここがミソだったりする。クイズ問題、とりわけ早押し問題における対処法は、不得意ジャンルよりも得意ジャンルにおいてこそちゃんと把握しておかないといけないのだ。
前回、不得意ジャンルは無理に得意にしなくてもいいと書いた。
不得意ジャンルなんて放っておいてもいいからだ。メンタルを整えさえすれば何とかなるものなのである。
一方、得意ジャンルはというと、何とこっちの方も案外自分のメンタルに影響を与えてしまうものだったりする。
それはどういうことか。端的な表現をすれば「嬉しくなってしまう」のである。
野球をやったことがある人ならわかるが、打者がど真ん中のストレートを打ち損じることが意外と多くある。読みが外れた、ど真ん中が実は苦手、など理由はさまざまだろうけど、ボールがあまりに甘すぎて、「あ、きた♥」と思ってしまい、一瞬体に力が入りそれで打ち損じる、というのも少なくない。
スポーツでは体に余計な力が入ると、さまざまな部分にロックがかかってしまい、思った動きができなくなってしまう。ドラムの演奏でもそうだな。ダンスもそうだ。野球の打者ならスムーズなスイングができなくなってしまい、一瞬振り遅れてしまうのである。
クイズにおいて自分の得意ジャンル問題は絶好球といえるが、「きた!」と思ったとしても別に指の速度が遅くなるわけではない。ではどうなるか、「答えたくて仕方がない」という頭になってしまうのだ。野球でいうと、まだホームベースに近づいてもいないストレートを振りに行くようなものなのである。
ここまで一口に「得意ジャンル」と書いてきたけど、この「ジャンル」が細分化されればされるほどこの傾向は強まっていく。
つまり、「スポーツ」を得意ジャンルにしている人でも細分化すると「サッカー」や「オリンピック」といったジャンルにさらに得意が設定されている。いわゆる「得意中の得意」ってやつだ。
たとえば「サッカー」が「得意中の得意」として、その人が「Jリーグ」、さらには「浦和レッズ」を「得意中の得意中の得意中の得意」としていたとき、早押し戦で6-4なんかで勝っている状況で、「Jリーグ、浦和レッズの歴代監督のうち~」なんて問題文を聞かされたらどうなるか。これはもう、頭の中で花が咲きまくるに違いない(笑) 天使がぐるぐる舞う、みたいな状態といってもいいかも知れない。
とにかく「早く答えたい!」と、「これは取りたい!」という気持ちが先走りすぎることになるのだ。
ちなみに後者の考え方はクイズプレーヤー独特のもので一般の人は理解できないかも知れない。「ただ正解をするのではなく、満足のある解答をしたい」というものなのだ。そのオカズだけでご飯3杯いける、みたいな。(って違うか)
そして、こういう場合大体がつい早く押しすぎて(笑)、「では」や「ですが」の餌食になってしまう。押した直後に問題文の流れが変わって、先読みし切れずに誤答になってしまうというものだ。
(関係ないけど、大学時代に稲川先輩が、こういう「では」で「散々な目に遭う」展開を「では散々」と命名していたなあ。クイズ屋しかわからないネタだな)
結果、誤答してしまった問題は得てして全文が読まれてもスルーになってしまう場合も少なくなく、押して間違えたその人は「あー、わかってたのに!」とか叫んでしまうことになる。だいたいの場合は誰かがチャリっと正解して、「あとちょっと聞いていれば!」って地団駄を踏むことになるんだけどね。
「得意中の得意中の得意中の得意問題」で誤答をしたときは、単に自分の得点がマイナスになったり不利な状況になったりするだけでなく、それ以上の精神的ダメージを負ってしまうことになる。
クイズにおいてメンタルの調整は必須である。それが「単なる1問」に過ぎないのに自分が勝手にそこに付加価値をつけて、しかも誤答をして落ち込む。こうやって改めて書いていてもアホちゃうか、と思ってしまうシロモノだ。
でもやってしまうんだよねー。もちろん僕も過去これに何回も何回もハマった。
僕はクイズの後輩に「鉄則」という、クイズでは絶対的なものを伝えてきているんだけど、この展開も鉄則の1つである。すなわち、
「得意ジャンルは一拍置く」
である。
不得意ジャンルへの対処法ではマイナスのメンタルをどうするか、なのだけど、得意ジャンルの対処法では逆にプラスのメンタルをどうするか、ということになるのだ。
実はクイズではこっちの方が面倒なのである。不得意ジャンルの問題には「つい押してしまった」とは、まずならないが、得意ジャンルの際には「あ、指が勝手に」みたいな状況が生まれるからだ(笑)
ではこれの対処法は何か。これはもう「嬉しがらない」としか言いようがないんだけど、でもそれが真理だと思う。「心を無にする」のは大げさとしても、他のジャンルと同じ心持ちで対峙するということを心掛けるしかない。
心配しなくてもいい。その「得意中の得意中の得意中の得意ジャンル」は、その場にいる誰よりもあなたがよく知っているし強いのだ。対戦者だけではない、出題者やスタッフよりも強いのだ。だから一拍置いて押したとしても必ず取れるはず。取れると信じて対処しよう。もし誰かに取られたら、それはそれ、あくまでただの1問として流すこと。決して心に波を起こしてはいけないのである。
さて、前回、不得意ジャンルを潰す、押してわざと誤答して問題を流す、というイケナイ話を書いたが、その中で「これを遂行するパターンがある」、みたいなことを書いたんだけど、それがまさしくここである。
つまり、もし対戦相手の「得意中の得意中の得意中の得意ジャンル」がわかっていたとき、絶妙のタイミングで押して潰してやるのだ。(よい子はマネしちゃダメよ)
頭の中で天使が舞っている状態でポイント直前で潰された方は高確率でイラつく。つまり1問マイナスを得て、相手のメンタルを乱させることができるわけだ。
まあでもこれは完全なマナー違反ともいえるので(ジャンルを知っていて潰した場合のみ)、基本的にはやってはいけないプレーではある。しかし、ここしかない、という状況で、そして上手くやれば(笑) 何とかなるというものでもある。(どないやねん)
これで長かった「得意不得意シリーズ」は終了。
最近ちょっとクイズっぽいことばっかり書いてるので、次回はライトなものにしようかしら。ベトナムのアホが文句言ってくるかもだけど、知ったこっちゃねえや(笑)
ではまた来週の木曜日。