波
181004
僕も本来は「クイズを答える人」なんだけど、ここのところすっかり「クイズを出題する人」になってしまっている。いや、出題するだけじゃないな、「クイズ形式を紹介する人」にもなってる感がある。
SODALITEであろうがScarlet Liveであろうが、クイズの形式は決まっているいくつかのものを除いては可能な限り同じものはやらないことにしている。
それは何故か。僕が飽きるからだ(笑)決して参加者のことを考えているのではないのである(笑)
新しい形式を考えて実行すると、成功と失敗が当然出て来る。
面白いのは、昔からそうなんだけど、クイズ形式の「成功」と「失敗」は、こっち側(出題者側)とあっち側(参加者側)で必ずしも一致しない点にある。ひょっとしたらこれはクイズ作成者あるあるかも知れない。それほどまでに一致しない。
昔はそういう成功失敗の一致不一致に気分が揺れたりすることもあったけど、ここ四半世紀ぐらいはどうあっても心が乱れたり浮かれたりすることはなくなった。ハナっから「一致しないもの」と決めつけてかかっているからである。
しかし2018年。ここに来てクイズ形式を通して「成功」「失敗」のような分類とは全く違うものが僕の中に突き刺さってくることがある。それは「発見」である。
なるほどー、これをこうするとこうなるのかー、とか、これをこう出すとこう間違えるのかー、なとどいうベタな発見ではない。そんなものは人に対して出題を始めた中学高校時代からわかっている。
そうではなくてクイズそのものの分析にかかわる発見である。
もちろんこういった類のものは他の誰かにとってみたらすでに発見済みでそれこそベタな話かも知れない。でも僕には新しい発見なのだ。
大小いろんな発見がこれまでにもあったんだけど、その中で面白かったものを今回は紹介したい。「クイズの問題文は波、説」である。
これは僕がずっと考えていたことで、実は早押しクイズの「奥義」の1つとして捉えていて弟子の何人かには過去に言ったことがある。しかし文章にして残したことはなかった(はず)。なぜならあまりにも抽象論過ぎて伝わらないと思っていたからだ。
内容をかいつまんで言うと、「クイズの問題文には波がある」とし、早押しクイズで勝負をかけるときは、波の山の頂点にある「ポイント」やその「ポイント」の一瞬前とかではなく、さらにその前の波が盛り上がって来る場所に「指をズラす」必要がある。逆に守りに入るときは「ポイント」をわざとスルーさせて、その次に来る波の頂点の前の場所で押す、すなわち「後ろにズラす」とする。
そしてその両方の能力を備えていないといけないというものだ。
音楽をやっていた人には別の表現の方がわかりやすいかも知れない。
この早押し技術の感覚は、拍の表ではなく「裏で打つ」というものだ。
実は僕も高校時代にドラムを習っていたのでこっちの方がしっくり来るっちゃしっくり来る。
だからずっと自分の中では常々「あー、もっとちゃんと裏で打てばよかったー」などと言っていた。当然こんなこと人に言ってもわからないから言わなかったけど(笑)
早押しクイズで押し負ける、そりゃそうだ。みんな同じ場所で押すんだから。でもその場所から前だったら押し負けることは少なくなる。
しかしここで懸念されるのが「ポイントの前だったら問題が何かわからないのではないか」ということだ。
それはたしかにある。しかし以前のコラムでの「ポイント」の説明でも書いたが、百人一首とは違ってクイズの問題文はポイントは本当は全てが見えている場合にのみ有効なのだ。「ですが」の一言でひっくり返る場合などがあるからね。
だからポイント押しをすることはどこまでいっても確率論の問題である。だったら今回僕が紹介している「裏で答える」も確率論である以上、有効となる。
どこまでも感覚的なものでしかなかったこの「波」や「表裏」をはっきり理解できたのがSODALITEでのクイズだった。
あれはたしか7月のエキスパート(ガチ)クラスでのクイズだった。
ルールは、あらかじめ問題文を13の文節またはそれに準ずるものに区切り、解答者はそれぞれどこで答えるか「入札」をする。1つ目だけを聞いて正解できれば500点、2枚目なら300点、3枚目なら200点となり、以下100、90、80、…、20、10と点数が減っていくというものだった。もちろん3枚目まででは正解は出ないだろうから点数が異常に高くなっている。
このクイズで現れた意外な面白さは、途中の入札においてたとえば「7枚目」と「8枚目」に実質的に何の違いもない、という場合だった。
その時の問題を使って具体的にみてみよう。
問題
【物語に】【登場する】【美女や】【ヒロインにも】【いろいろ】【ありますが、】【映画の】【『007シリーズ』に】【出て来る】【ヒロインは】【特に】【「何ガール」と】【呼ばれる?】
問題文はこの形式に合わせているので当然、無駄な言い回しを多用している。
しかしそれによってかえってそれは明確になったのだった。
たとえばこの問題なら【出て来る】とか【特に】なんかは思考にほとんど影響を与えない。【物語に】から【ありますが、】のうちの【ヒロインにも】以外もバッサリ切り捨てることができる。
このクイズでは入札した人は自分の解答をボードに書き、全員最後まで問題を聞くことになる。「くすぐり」(関西の演芸用語。標準的な言葉にすると「ギャグ」?)は当然「あー!」という叫びがそこかしこで現れることである。
面白かったのがこの思考に影響を与えない無駄な場所での叫びだった。「いや、それはわかってる!」とか「絞れない!」と言う声が聞こえた。
僕はそれを聞いていて、これこそが問題文の波だと理解した。
クイズの問題文には波のようになっていて、山の前で連想して正解の候補を出し、山で押す。ここまではわかっていたんだけど、実は「谷」もあったのだ。
正解の連想をする場所、それこそが谷の部分なのである。
それを具体的に見せてくれたのがこのクイズである。
たとえばこの問題だったら【ヒロインにも】が谷、【『007シリーズ』に】が山、【映画の】も実は小さい山となっている。
「重要ワード」という言い方をするとわかりやすいかもしれない。
この場合、「ヒロイン」も「『007』」と同等の重要ワードである。しかしクイズの問題としてならそれでは明らかに同等ではない。「ヒロイン」はあくまでも連想の材料に過ぎないからだ。そこはボタンを押す場所ではない。
だが「ヒロイン」には「物語」などの他のワードとは違う価値があるのは明らかだ。だからここが思考においては重要なものであるのは間違いない。
つまり問題文には「重要だが押せない」「重要で押すべき」「それ以外」の3つの場所があるということになる。これが谷と山に相当し「波」というイメージが高校時代の僕の頭の中にあったことになる。
そして、ここらかが大事なんだけど、ボタンを押すにはこの「それ以外」が重要な要素となってくるのだ。
スピードスケートでいうと、足を蹴る行為が山と谷とするなら、蹴った後に滑っている部分、それが「それ以外」となる。
勝負をかけたときに早押しボタンを押す場所はこの問題文がつーっと滑っているこの「それ以外」の部分なのだ。誰もが足を蹴る「ポイント」ではなく、そして蹴る直前の「ポイント前」でもない。そのさらに前の滑っている部分、ここで明らかな意思をもって押すのである。これが「指をズラす」である。
これが現役時代、指が早いと言われ続けた僕が獲得した奥義の1つなのだ。
当然ながらこれは「ポイントで押す」や「ポイントの前で押す」という能力を備えた後での話なので、ビギナーの人はマネしないように(笑)
そもそもビギナーは「ポイントって何だ?」から始まって「ポイントってどこ?」の時代をクリアしないといけないんだけどね。
SODALITEで平気な顔をしてクイズを出題していても、頭の中で別のことを考えていたりすることが少なくない。この時はクイズをやりながら頭の中はこの「波論」ばっかりになっていたなー。嬉しくなってクイズどころじゃなかったなー。参加者のみんな、ごめんなー(笑)
これだからやめられないんだよねー。
あと、SODALITEに来るみなさん、僕がやたらに「連想」や「分割」クイズをやる理由がわかった? そう、この「谷」における「連想力」って早押しクイズにおいてはムチャクチャ大事なのよ。そこを鍛えてるの。
ゲームにして楽しんで、でもその実はちゃんとした鍛錬になっている、そういうクイズをするのが僕のモットー。「楽しみながら強くなる」というRUQSのテーマそのものだったりするのね。
ではまた来週の木曜日。