知識の入れ違い

180906

たまにはクイズの軽いネタでも。

でもまあよく考えたら、もともとこのコラムはクイズの適当な話を書くものだったんだけどね。何せ第1回は例の「コロンブスの卵」の話だったんだから。(あのネタなんて適当にもほどがあるよなー)
ちなみにあの「卵」の当事者であるウチの息子は、あれからしっかりパワーアップを続けている。奴の話にこっちの目から鱗が5枚ぐらい落ちることが最近はよくあって父は悔しい。クイズ的に面白い話もあるのでチャンスがあったらまた書いてみようと思う。

さて、クイズを好きで続けていると、あっという間に時間が経ってしまう。
時間が経つことそれ自体は経験が重ねられているということでむしろプラスしかないんだけど、厄介なのは時間が経つと確実に「歳を食ってしまう」ことだ(笑)
これは誰にも避けられないので仕方がないんだけど、でも困る。

ただ僕の経験上、歳を食ったからといって急に物忘れが激しくなる、みたいなのはクイズの世界では実はほとんどなかったりする。傍目に見ていて、あの人ヤバくなったなーってのもほとんどない。ヤバい奴は若い時からヤバい(笑)

それでもクイズの世界の連中もみんな歳を食うと「物忘れがねー」みたいなことを言う。でもあれは謙遜やギャグの部分が大半で、スポーツ選手が感じる急激な体の衰えのようなものは頭の中では起きていないのが実際だろう。
だからクイズ屋は誰一人として加齢を理由に引退しない。

むしろ逆に、変に衰えないからこそ年上の人の前で僕らはずっーと後輩や小僧でいないといけない(笑) 瀬間さんの前では僕は永久にパシりだ。
そして同時に僕の後輩も確実に僕に対してそう思っている。

ところで、頭の中のトラブルといったら「ど忘れ」や「覚え間違い」がメジャーなところだが、クイズにおいてはそこに「入れ違い」というのが加わる。

高校生の頃、まだ一人でクイズをやっていた時代は、こんなことが起こるのは僕だけかも知れないと思って悩んでいたんだけど、クイズ屋と知り合うに連れて単なる「あるある」とわかってきた。

知識の入れ違い。これはどういうことかというと、濃い薄い関係なく何かの共通項だけで繋がっている2つの単語が、なぜか同一のものと認識されてしまって頭の中の同じフォルダに入ってしまい、当たり前のように頭の中を駆け巡ったり口をついて出てきたりするというものである。

なーんて書いたら全然わからんやん、ということで例を挙げると、たとえば僕なら、クイズを始めた頃から「芦田均」と「片山哲」が同一人物になってしまって困っている(笑)
「近衛文麿」と「東久邇宮稔彦王」も僕の中では同一人物だ。海外では「ダンテ」と「ゲーテ」も1人しかいない。

とりわけ、「ブルガリア」と「ポルトガル」が同じフォルダに入っているのは深刻だ。
たとえば「ブルガリアが面する海で」みたいな問題文があったときに、僕の頭の中ではまずイベリア半島の地図が浮かんだりするのである。

この「入れ違い」の一番の面倒な部分はここからである。この「まず最初に思い浮かべてしまうもの」がイベリア半島の時もあれば、正しく黒海あたりの地図も場合によっては登場する。
間違っているものだけが頭に出てきてくれたら機械的に修正がかけられるが、正しいものも出てくるので始末が悪いのである。

このように「入れ違い」の単語や固有名詞がクイズの問題文の中(特に冒頭)に含まれるとその後の部分を当たり前のように間違ってしまうのである。僕はこれで生涯、何問を失ったことか。

しかもこれの悲しいところは、当人以外、たとえば僕以外の人にしてみたら「ブルガリアとポルトガルなんか全然違うやんけ!」で確実に終わってしまうことにある。
2つの単語がごっちゃになるのはあくまでもその人の基準であって、普遍的な理由もへったくれもないのだ。ルールや法則なんかもないため、「入れ違い」の発生はもう悲劇としか言いようがないのである。
そして一度入るとなかなか分離されないのも「入れ違い」の特徴で、それが被害を長期にわたって深刻なものにしている。

先日もソーダライトで同じようなことがあった。

カーネーションはナデシコ科の花である。それを問うた問題で「キク科」と誤答をした人がいた。
正解はナデシコ科、と言ったら「キク科ではないんですか?」と思いっきり食い下がって来る。
確かに「科」の問題は十分ケアしないといけない分野だ。だから僕も「しまった、カーネーション、変わったのか」と思ってしまった。それほど自信に満ちた食い下がりだったのである(笑)

そのやり取りを見ていた人がスマホで調べてくれて「いやナデシコ科ですよ」と援護射撃をしてくれた。僕も「調べてみるわ」と見てみるとやっぱりナデシコ科。当たり前だ、出題前に裏取ってるっての。

しかしここでその彼女も負けていない。「キク科って書いてありますよ」となおも畳み掛けてくる。
そして、彼女のスマホには確かに「キク科」の文字が!

そうかー、資料によっては違うのかー。チェックが行き届いてなかったか。しまった。

「えー、みなさん、この問題はちょっと調べておきますね」
と言い終えて次の問題に行こうとしたとき。

「あ、カーネーションでしたか」
と彼女。

まさか。
そう、彼女は「カーネーション」ではなく「コスモス」の項を見ていたのだった(笑)

彼女はものすごく照れて、すいませーんと謝った。そりゃそうだ、謝るしかできんわなー。
でも僕は心の中で思っていた。
「出たなー、近衛文麿!」(笑)
たぶん彼女はかなり早い段階で「カーネーション」と「コスモス」を混同していたのだろう。「入れ違い」だったらもう何年もそれが起こっているはずである。

僕は確信していた。これは「入れ違い」である。彼女のなかでこの2つの単語は同じフォルダに入っているに違いない。
しかたないよなー、クイズをやってるとそれはあるあるなんだよねー。だからそんなに謝らなくていいよー。
だから僕もバツの悪そうにしている彼女に一言だけ声をかけておいた。

「カーネーションとコスモスて。全っ然、違うやんけ!」

他人に厳しく自分に甘く。そういうものにわたしはなりたい。

ではまた来週の木曜日。