長戸的クイズ用語の基礎知識③

170615

「クイズ用語」の第3弾である。

何回も確認するけど、「クイズ用語」といっても、これ僕が勝手に言ってるだけのものだからねー(笑)
そんなのは聞いたことがないってそれが普通だから。あまりピリピリしないように。

初めてテレビで早押しクイズを見たとき、誰もが「何でここでわかるんだ」という驚きを持ったと思う。
現在は名だたるクイズプレーヤーであっても最初はそうだったに違いない。
クイズファンでありながらまだ早押しをしたことがない人ならひょっとしたらずっと同じことを感じているかも知れない。

そのカラクリを解き明かす1つの手掛かりが以前に書いた「ポイント」の概念だ。
ポイントは問題文中にある「決まり字」のようなもので、その部分で押すと良い、というものである。
しかしながら実は基礎的なところでもう1つ重要な手掛かりがある。それを今回は紹介してみよう。
ちなみに登場する用語は「タナ」である。

スポーツの成績は練習や訓練をする時間や量に比例して最初は伸びていく。スポーツに限らずこれは勉強も同じだろう。
しかし、早押しクイズにおける一般的な成績はこれとは全く違う不思議な伸び方をする。
グラフで表すなら、一律的な右肩上がりのものにはならず、一気に上がったかと思えばその後急激に下がり、再び上昇して少し下がり、その後は緩やかに山を描く、となる。

ただしこれはあくまでも「成績」の話で、早押しの技術的なものは普通に伸びて行く。
そしてクイズの強さそのものとは関係がないものである。

最初の「一気の伸び」が見られる時期は早押しクイズのやり始めで、「やればやるほど」結果が出る頃だ。
それまでボタンに触ったことすらない人がボタンを押すことに慣れ、ちょっと時事も勉強して対戦してみたら、今まではラブゲームだったのが今日は3問取れた、5問正解できた、などとなる時期である。

ゼロから始まるのだからどんな結果になってもすべてプラス。クイズにおいてはこういう時期は無垢に楽しい。
そして「できなくて当たり前」「知らなくて当たり前」という部分も自分の中にまだ残っているから、誤答に対しても寛容となっている。だから余計にプラスの結果しか見ないことになる。
さらに、有名な人と対戦して、たまたま自分が解答権を取って1問でも正解すると、もう下手したら勘違いしてしまう勢いにもなる(笑)
もちろんこれはこれで悪いことではない。こういうプラスの現象やイメージ、考えを燃料に僕らも前に進んできた過去がある。
こういう時期は、人によってはどんどん指が速くなり、周りは解答権すら簡単に取れなくなってしまう。RUQS(立命館大学のクイズ研)だったら1回生に多かった現象だ。

ではこの直後に起きる、「急激に下がる」期は何なのか。

クイズを勉強していると知識はちゃんと増えて行く。この「知識量」というヤツは右肩上がりに伸びて行って決して下がることはない。
しかしこれが早押しクイズにおいてのクセモノで、知識は増えすぎると指にブレーキをかけてしまう存在になるのだ。
これがその「急激に下がる」期の発生原因だ。

たとえばベタな問題を使って解説してみると、

問題:漢字で木偏に春と書くとツバキですが、

と来ると、まあポイントが2段階ある問題だなとわかる。
最初に来るのは「が、」の一拍後で、この場合は「魚偏」を呼び込んで「サワラ(鰆)」となる。
勝負時以外はこのポイントはスルーされるから、この後に少し待った「木偏に」の一拍後が本来のポイントとなり、「な」で「エノキ(榎)」、「あ」で「ヒサギ(楸)、「ふ」で「ヒイラギ(柊)」を呼び込める。

もちろん例外もある。かつて『アップダウンクイズ』ではこの後に「木偏に「風」と書いて何と読むでしょう?」という問題があって正解は「カエデ(楓)」となっていた。
ただし、この問題に限っては前振りがあり、問題文の冒頭に「春風の季節です。」という一文があった。まあこれなら100パーセント、正解は「カエデ」だろうし、そもそもポイントは「木偏に」となる。「春」まで聞いていては遅い。「木偏に」で押して「カエデ」と答えるのが妥当だ。

さて話を戻して、もし「椿」と「柊」しか知らない人がボタンを持っていたとすると、たぶんその人は最初のポイントで押して「ヒイラギ」と答え、概ね4分の1の確率で正解を取っていくようになる。だってそれしか知らないから。
誤答したとしても初心者の人にはそんなに注目が集まらないので、たまに起こる「奇跡的な速さ」での正解ばっかりに目が行くことになる。
で、そういうのがたまたま続くと、さすがに周りの見る目も変わり、その人も調子に乗って(笑)指はさらに早くなってしまうのだ。

そしてその人がしばらくして「榎」という字を憶えた。そして「鰆」も憶えた。すると途端に指が遅くなる。それはなぜか。ちゃんとポイントまで待とうとするようになるからだ。
ここで初めて「正解の候補」が生まれたのである。
問題はこれだけではない。木偏に秋の「ヒサギ」は春夏秋冬の他の3つと違い人名用漢字にすら含まれていない。つまり「全くなじみのない」ものである。それを憶えていればいいが、問題文を聞いている途中で「あ、オレは『木偏に秋』は知らないなあ」と自分自身に確認してしまったら終わりで、こうなるとその人の中には「押さない」という選択肢さえ新たに生まれてしまう。

こういう時期に入ると、知識は増えて行くにもかかわらず、早押しでは以前のような電光石火の押しができなくなってしまう。ペーパークイズは好調なのにその先で勝てない、という現象もこの時期から起きる。
RUQSでは2回生によく起きたことで、イキのいい1回生がバンバン押して「たまたま正解」を拾って行く姿を見て、ボタンの点かない自分にがっかりする、みたいなこともよくあることだった。
だからクイズ研の運営では2回生の扱いをどうするかで、その後のサークルの行き先が変わると僕は考えていた。1回生は放っておいても楽しんでいる。しかし2回生は先輩でありながら勢いに押されて比較的つまらないと感じる時間を過ごしているのだ。知識量が増えているにもかかわらず。
だから彼らをいかにして楽しませてサークルにおける自分自身の重要さを感じさせるかが上回生のテクニックだったのである。
って全然関係のない話でしたね(笑) サークル運営ってどうでもいいよなー。

このように、知識量が増えると正解の選択肢が増える。この状態でより早く押して勝負をしないといけない場面では、1つの重要なテクニックが必要になる。
それが「その候補の中のどれが正解にふさわしいかを瞬時に選ぶ」ということだ。

早押しクイズでは、出題される問題それぞれに次々に対峙する、というイメージがあるが、この「選ぶ」という作業ではそれなりの「根拠」が必要となる。そしてその根拠の材料として「番組(または大会)」「出題者」「対戦者」「放送時期(または今日の日付)」から、「今日の自分の勘」まで実に幅広いデータがあり、それらをあらかじめ集めておかなければいけない。

たとえばさっきの問題なら、放送日や大会当日が12月だとするなら、問題は時期に合わせた「冬」へ振る可能性が高くなるし7月ぐらいだったら「夏」になる可能性は高くなる。
また、テレビ番組の場合、レギュラーで長く放送していると出題に一定のクセを発見することができることもあり、「ですが」で問題を振る場合は「隣のデータに寄る」とか「反対の端に寄る」などのクセがわかるときがある。
すなわち「春」で振ると「夏」に行くのか、「冬」に飛ぶのか、といった具合だ。
グルメ問題を出したがる番組だったら「サワラ」だろうし、難問系の出題に偏っていたら間違いなく「ヒサギ」に問題は振られる。

早押しクイズではさまざまなバックボーンを考えてそれを根拠とし、問題そのものがどこにあるのかも先に考えておく必要があるわけだ。そしてその問題の「居場所」のことを「タナ」というのである。

これはもともと釣り用語。釣りをやらない人にはピンとこないと思うが、釣りは単に糸の先におもりと餌をつけて水の中に沈めておけばいいというものではない。
魚にはそれぞれ泳いでいる深さ(泳層という)があり、その深さの位置に合わせて餌を沈めておかないとどうにもならないのである。
釣りではこのタナの見極めと仕掛けの深さを合わせることで釣果が左右される。それほどまでにこの概念は重要なものなのだ。

クイズにおいても問題の群れがどの深さを泳いでいるかというタナを見極めることが重要で、この瞬時の作業が勝負を分けることが少なくない。

ところで、タナを見極める上で絶対に押さえておかなければいけないものがある。それは「出題者」である。
野球でいえば解答者が打者であるのに対して出題者は投手である。試合に勝つために相手投手が何者なのかを把握するのは絶対のことだろう。フォームはどんなものなのか、ストレートの速さはMAX何キロか、持ち球には何があるか、コントロールは、スタミナは、メンタルは・・・。初対戦ならその上で試合中に生きた球でデータを集めることすらする。
クイズも同じで、出題者や番組がどんな問題を出すのか、その傾向をあらかじめ可能な限り把握しておかなければいけないし、初めて参加する番組や大会なら、今出されている問題から自分の中にどんどんデータを蓄積して行って、解答をしながら分析を進めていかなければいけないのである。
とにかく問題群の「タナ」をいかに早く見つけて行くかが早押しのカギになる。これは非常に重要なことなのだ。

とまあ、本来ならここから「出題者」に対する考察が始まるんだけど、長くなりそうなのでそれはまた改めて。

ではまた来週の木曜日。