長戸的クイズ用語の基礎知識④

170713

またもや「クイズ用語」シリーズである(笑)

早押しクイズの勝負では、問題の「ポイント」(基礎知識①参照)の位置を誰よりも早く理解してその以前に押す、というのがスタンダードな戦い方だ。
これを無視すると「バカ押し」(基礎知識②参照)になるので要注意。
そして「ポイント」を把握するための材料の1つとして、問題そのもの、問題群、戦っているステージ、大会などをトータルに考えた出題レベルを捉える必要があり、そのレベルを「タナ」(基礎知識③参照)と呼んだりする。

今回紹介するクイズ用語は僕発信のものではなく、先日からアニメ放送もされているクイズ漫画『ナナマルサンバツ』でも使われているものなので、現役の人や若手連中にもなじみがあるのではないだろうか。
「ダイブ」という戦法である。

「ダイブ」は、クイズ対戦の中でどうしても点数がほしいときに、問題のポイントが来る明らかに前に押すというもの、である。すなわち「玉砕戦法」のことだ。
「飛び込む」というニュアンスで「ダイブ」と呼んでいるのだろうなあと推測される。

僕が現役の頃には少なくとも関西ではこういった表現はなく(ひょっとしたら東京の大学では使われていたかも知れない)、もっぱら「勝負」と呼んでいた。
今から思えば非常に紛らわしく、会話や文章でも前後の内容から判断しないといけないものだった。「次の問題は勝負や!」みたいな感じね。

たしかに早押しクイズの基本はどこまで行っても「人より早く押す」なので、それを基準に「ポイント」の概念や、「タナ」という発想が生まれた。
しかしこの「ダイブ」(「勝負」)は、いくら何でも無茶すぎる(笑)
正解できればいいが、どう考えても失敗する可能性の方が高い。
団体戦のときに誰かが死んでもチームとしてはまだ戦いが継続される、という状況以外ではほとんど使われないと言っていいだろう。

たとえば1988年12月収録の『アタック25 700回記念 大学対抗大サバイバル』では、最後の問題を取ったら優勝という場面が僕にやって来た。
僕の後ろに控えている瀬間康仁さん(当時『第12回ウルトラクイズ』優勝直後)に「次、勝負行きます」とは告げたものの、結局はダイブほどの早さでは押せなかった。(取って勝ったけどね)
無意識に指が縮こまったんだろうね。それほどこれは怖い戦い方ではある。
個人戦ではよほどのことがない限り誤答のペナルティのリスクを負ってまでやるべきではない、というのが一般的な見方だ。

しかし!僕はこのように現役時代に「勝負」という言葉を実際に使っていたぐらいだから、この「ダイブ」にも裏技的なものがないわけではない。「ダイブ」の成功確率を上げるという手がないわけではないのだ。
今回はそんな「長戸流ダイブ術」を紹介してみようと思う。

まずはダイブの下準備である。

ある程度早押しクイズに慣れてくると、「ここで正解が欲しい!」という場面が現れるのがわかるようになる。
大抵は自分が押されてヤバくなる寸前か、弱ってきた相手に決定的な打撃を与えられる時間帯か、のいずれかで。

クイズでは「次の問題」が何かは当然わからないし、問題の候補すら普通はわかりようがない。ある意味、ここがクイズと百人一首の決定的な違いでもある。
次の問題で押し勝てるか押し負けるか、ということ以前に、次の問題の正解を自分が知っていることかどうかさえ、出題されなければわからないのだ。

しかし、実際の勝負ではさっき書いた「ここで正解が欲しい!」という場面は出てきてしまう。
次の問題が結果的に自分にとってちんぷんかんぷんの内容のものだったらまだ諦められるとしても、答を知っていたのに押し負けてしまった、というのはどうしても避けたい。精神的ダメージが大きいからね。

ダイブはこんな場面で使う作戦の1つ。
とは言うものの、やはりどこまで行ってもダイブは「バカ押し」や「無茶押し」と紙一重なのでやらないのに限る(笑) それが勝利への近道だから。

ところで、クイズ問題群には難度やクセがあり、これを釣り用語にたとえて「タナ」と呼ぶというのは前に書いた。
まずはこのタナを見極めることが、高確率で正解を生むダイブの下準備になる。

さっきも書いたが、「ここで正解が欲しい!」と思っているときは、往々にして押されているときであり、そして大抵はそれまで「押しても点かない」という状況が続いていることが多い。
しかしながら面白いもので、「点かない」ときは逆に問題を冷静に把握できていることが多く、「ああ、これはわかってたな」とか「もっと前で押すべきだったか」などと自己分析することができたりするのだ。
これを平和利用しない手はない!
すなわちこの部分をもう一歩踏み込んで考えてみるのだ。

つまり手順はこうだ。
押し勝とうが押し負けようが、今対峙しているクイズの問題群はどこのタナにいて、その問題について自分の純粋な正解率は大体何割かを計算し直してみるのだ。

たとえば数字を使って例を挙げると、直近の問題5問のうち4問はわかった、または3問はわかった。だったら直近で「自分が知っている率」は8割または6割となる。
もし6割以上だったらタイミングを見計らってのダイブが可能だ。

すなわちこの場合、「5問単位での出題で4問わかった」なら、「わからなかった問題の次の問題」はかなりの高確率で「わかる問題」が来るのである。

もし正解率が6割だったらこれが「2問連続で」となる。正解率が6割で2問連続でわからなかったら、その次はわかる確率が非常に高い。
ダイブを敢行するのはまさにこのタイミングである。

もちろんクイズは知識×確率のゲームでもあるからこの方法が100%上手く行くとは限らない。知ってる問題だとしても答をド忘れして正解できないという場合もあるだろう。
しかしながら高度な戦いの中でポイントを「かすめ取る」ような必要がある場合は、単なる知識×確率ではなくそこに「×作戦」や「×勇気」などの要素を加えないといけないのだ。

ダイブの仕上げは「押すタイミング」である。

ダイブする準備が整ったら押すポイントを探りながら問題を聞いてみよう。運が良ければ文章が読まれた冒頭部でジャンルだけでなく構成や全体像も感じられる。

そのときに「ポイント」まで待ったり、「読ませ押し」のための「ポイント1拍前」まで待ってはいけない。ダイブなんだから押すのはその全然前である。(ここで「押すのは大分(だいぶ)前である」と書く勇気はさすがになかった(笑)関西人のプライドがそれを許さなかった)
誰もが押さない位置で押さないとダイブの意味がないのだ。

ただ無茶をしているのではなく、最善を尽くした上で敢えて飛び込んでいるわけだから最後は自分を信用するしかない。
問題を聞いて押した後、「強く浮かんだ答」が正解だ。
勘違いしてはいけない。「最初に浮かんだ答」ではない。そこはすぐに答えず、制限時間の中で正解候補を探ることはやろう。そしてその上で最も強く浮かんだ答を言葉にするのだ。

点差が離れているときのこういった行動には、相手もバカ押しの末のラッキーな正解としか思わないが、ギリギリの勝負どころや自分が押されているときにやられると、結構ダメージはあるものだ。
だってもともとダイブはこっちの勝負を楽にするための戦法なのだから、上手く行ったらすなわち相手のダメージになるのである。

以上が正統派のダイブなのだが(ダイブに正統もクソもないんだけど(笑))、そこまで無茶をせずに正解の確率を上げたいと思うなら、ポイントや「読ませ押し」のための「ポイント1拍前」よりも、少しだけ早い「ポイント2拍前」で勝負をかけることを薦める。

もちろんこの「2拍前」ではまだ問題の確定要素は現れていない。現れてしまったら相手も押してしまうからね。
ではこの「2拍前」がどの位置なのか、これを把握するには普段仲間内で早押しクイズをやるときに探るしかコツを得る方法はない。
たとえ遊びでも漫然と楽しんではいけないのだ。遊びの中であっても自分のテクニックや「持ち芸」は磨いて行く必要がある。

ちなみにこの「2拍前押し」だが、これにもやはり重要な効果がある。
単に敵に「押し負けた」という印象を与えることができるというのもあるが、「ひょっとして自分のポイントはズレてるのか?」という疑念を抱かせることもできるのである。
そうなると、そいつの指は若干早くなる。
こうなったらしめたもので、確実にそいつの誤答は増える。

早押しクイズではとにかく「刹那の差で押し勝つ」を心がけるべきで、圧倒的な一人押しで正解することも悪いことではないが、勝負の面では案外相手に打撃を与えられない。
取れたと思わせた問題が取れなかったときこそ相手は神経をすり減らしたり、焦りを生んだりする。
心が乱れるのは勝負においては絶対NGなのだから、逆に言えばそれを相手に植え付けるのは必須事項だともいえるのだ。

今回の「ダイブ」の話は、確率論で問題を呼び込み、押すタイミングを計る、というものなのだが、実際にはこの場面で必要な能力がもう1つある。
それは「勝ち運を呼び込む」ことだ。
しかしこれはこれで話が長くなるので、また別の機会に。

早押しクイズに限らずクイズはあくまでも勝負事でありスポーツでもあるから、劣勢でもひっくり返すことができる。諦めてはいけない。
今回のことは「正解率が最低でも6割」を対象にしているので、最近クイズを始めた人にはまだまだ先の話だろう。
しかしクイズの世界には、こういうこともあるんだ、こういうことを30年も前に考えている奴がいたんだ、ということを知っているだけでも未来が全然違うはずである。

今はとにかく正解率を上げるために問題を何度も繰り返し解くことが必要だ。いいからさっさとレベルを上げよう。
そしていつか一緒にボタンを交えよう。

ではまた来週の木曜日。