トークショー

170824

先日、初めて「トークショー」なるものを見に行った。

ステージでスポットライトを浴びておられたのは、古谷敏さんとひし美ゆり子さん。
そう、我々の世代のおそらく全ての人が、「ブラウン管の向こう側の人」として一度は顔を見たことがあるのでは、と思われるお二人だ。
「ウルトラ警備隊」のアマギ隊員とアンヌ隊員である。

古谷さんの場合は、顔だけでなく、「立ち姿」や「体のフォルム」も多くの人が目にしている。彼は初代ウルトラマンの中に入っていたスーツアクター(当時の表現では「ぬいぐるみ役者」とのこと)でもあるのだ。
だからたとえば初代ウルトラマンが両手を綺麗に垂直、水平に交差させる「スペシウム光線の構え」の写真などは誰もが目にしたことがあるほど有名だけど、あれも古谷さんの所作なのである。

しかし、今年で御年74なのだが、まあ見えない。
1回目のショーで着ておられた薄いピンクのスーツも2回目のショーでの黒のジャケットもどちらもとても似合っていてダンディーそのもの。さすが東宝のニューフェイスという感じだ。体型も当時とほとんど変わっておられないそうで、やっぱり痩せてなアカンなあ、と再認識させていただいた(笑)

かたや、ひし美ゆり子さんといえば我々の永遠のヒロイン「アンヌ」として有名すぎる存在である。
僕が彼女を初めて見たのは幼稚園のころだったと思う。ひょっとしたら記憶にないだけですでに2歳のときに出会っていたのかも知れない。人生で初めの「憧れの女性」であり、初めて会いたいと思った女性でもある。
これは同世代の元「男の子」なら共感できる人も少なくないと思う。

「友里アンヌ」ではないひし美さんのキャラクターがいかなるものであるかは、彼女の著書を読んでいる僕らからすれば十分承知しているところなので、アンヌなら絶対にしないであろうガハハ笑いやお酒にまつわるエピソードなども全て「フィルターに通して」(笑)見ることができた。

彼女も今年6月の誕生日で70歳になられたという。しかしやはりそうは見えない。とても可愛い方で、古谷さんと並ぶと、ホントにこの2人は70代なのか、と思ってしまうほどだ。やはり昔のスターは何かが違うのだろう。

「ウルトラ警備隊」は円谷プロ制作の特撮番組『ウルトラセブン』に登場する。
この作品の放送開始から今年でちょうど50年ということで、各地でさまざまなイベントが催されている。
今回のお二人のトークショーはそのうちの1つである横浜での「ウルトラセブン展」でのものだった。

「アマギとアンヌ」のトークショーはこの日だけの企画で、午前と午後、計2回行なわれた。
整理券をゲットできなかった僕は2回とも立ち見で拝見した。(主に50代のオッサン連中が会社を休んで早朝から並んでいたからだ。くそー)
展示、トークショーとも会場はたくさんの人で溢れ、すごい熱気に包まれていた。

本物のアマギ隊員やアンヌ隊員を見てみたい。どんな話し方でどんな話をしてくれるのか聞いてみたい、と開始1時間以上前から陣取っていた僕からはたぶん子供のころのオーラが出ていたと思う。目もキラキラさせていただろう。
なぜそう思うか、それは周りの連中もそうだったからだ。

お二人に会いたい、というのが僕にとっては当然ながらの第一の目的だったのだけど、実は、このショーにどうしても行きたかった「第二の目的」というのもあった。
それはトークショーの客側の視点というのを感じてみたかったのだ。

前回のコラムでも書いたが僕は今月、トークライブをやった。
Scarlet Factoryとしてはこれまで2度ライブをやったことになるのだけど、その構成はどうだったのか、正しかったのか間違っていたのか、というのを考える基準が欲しかったのだった。

今回、お二人のトークショーにはちゃんと「回す」人がいて、その人が振る質問に答えるという形となっていた。
一方、僕のトークライブはといえば僕一人が延々と喋り倒すというもの。つまり根本的なスタイルから違っていた。
しかもお二人のトークショーには何か上品な空気感まで漂っており、そこも僕のとは全然違っていた。

ところでウチの息子は先日のトークライブにアシスタントとして参加していて、この日もトークショーには興味ないというものの、展示を見るためについてきていた。
ショーが終わったあとに彼に、

「やっぱりオレのトークライブもあんな風に「回し」をつけて落ち着いた雰囲気でやるべきなんかなあ」

と話したところ、

「それができるんやったらやれば? できるんやったらの話やけど」

と一蹴されてしまった(笑)

「あんな落ち着いた雰囲気、我慢できひんやろ? 笑い、欲しいやろ?」

とも言われてしまった。
まあそうなんだけどね(笑)

しかしながら、僕としては得るところがたくさんあったのは事実だ。
トークショーそのものに対する「なるほどー」を多く集めることができた。

直接お話をさせていただくことは叶わなかったのでそれぞれのご本心は僕の想像の範囲になってしまうんだけど、古谷さんやひし美さんにとっては、俳優さんである以上「アマギ」や「アンヌ」のイメージはある程度の時間、「プレッシャー」だったり、「関わりたくないもの」だったに違いないはずだ。

しかしあるとき、あるきっかけでご自身に与えられたそれぞれの偶像を受け入れ、それを再表現して行こうと覚悟されたんだろうと思う。(その覚悟が生まれた時期や原因をいつか話させていただくチャンスができたら聞いてみたい)
そしてその覚悟のおかげで、僕らは少年の頃にひと時ながら戻れるのである。

MCの方が50年以上経っても数多くのファンの熱が冷めない作品は、『スタートレック』と『ウルトラセブン』だけだろう、と仰っていた。それは真実なのだろうと思う。「アマギ」や「アンヌ」の目の前に現れる僕らのようなファンは確実に昔の気持ちをそのまま持って、目をキラキラさせている。

僕がもし楽屋にお邪魔出来て話をしたら間違いなく、「子供のころから放送見てました」とは言うだろうし、「すごく好きでした」とも確実に言っただろう。
しかしそれらの言葉は彼女らにしてみればこの50年間、ずーっとずーっとそれこそ何万回も何十万回も言われてきたもののはずだ。
そしてその回数だけ「ありがとう」と返して来たことになるのだ。
これは本当にすごいことである。70歳を越えているにもかかわらず保持しているあの空気感がその歴史を物語っている。全ての時間の流れが遅いのだ。

『ウルトラセブン』は今年で50年。僕が出た『ウルトラ13』からは今年で28年である。
これまで僕も四半世紀以上もステージに立つ側として話をさせていただいていたわけだけど、たしかに必ずと言っていいほどライブ終了後には「ようやく会うことができました」と言っていただく方に出会える。

でも内幕をバラすと、僕が自分の中にある「偶像の部分」の存在を認めて受け入れ、覚悟したのはここ1、2年の話なのだ。どうして今になってホームページを作ったのか、とたまに聞かれることがあるが、それはこれが答えなのである。
もちろん僕の覚悟なんて「アマギ」や「アンヌ」を演じた彼らの域には達してないけど、でも僕にもそれなりにはあるのだ。

というわけで、トークライブもクイズライブも僕はこれからも続けて行くことになると思う。「やっと会えました」と誰も言わなくなるその時まで。

ではまた来週の木曜日。