クイズは○○力
170810
スポーツでは競技種目によって必要な力が違ってくる。
クイズもやはり同じで、やはりクイズならではの能力が必要になる。
クイズで必要な力といえば、何といっても「創造力」なんだけど(笑)、それは置いとくとして、クイズに勝つ上で備えておきたい力は何かというのを今回は考えてみよう。
クイズにおいて最も必要な力といえば、「記憶力」や「発想力」、「瞬発力」などが真っ先に思いつくが、僕はあえてこれらとは違う3つの力を紹介したいと思う。
僕がクイズを突き詰めてたどり着いた3つの力である。
(ってそこまで大層な話でもないんだろうけど)
まずは1つ目の力である。
これは僕はある人との出会いによって確認できた。
その人物とは『第4回アメリカ横断ウルトラクイズ』を制した、唯一の女性のチャンピオン、山口由美さんである。
1990年、彼女と初めてお会いしてお話をさせていただいたとき、この話題が出た。
「ウルトラクイズを制するにあたって、最も必要な力は何か」
これが、2人とも全く同じものを挙げたのだった。
まあ当然っちゃ当然なんだけど、あまりにも発想が同じなのでびっくりした記憶がある。
ウルトラを制するにあたって最も必要な力は何か。
それは「集中力」である。
1問に対峙する瞬間の集中から、1ヵ月という長い旅の全行程における集中まで、とにかくずっと気持ちを切らさずにいられる力が必要なのだ。
以前ある雑誌のインタビューでも話させていただいたが、由美さんといえば、僕がこれまで生きて来て出会った、たった1人ともいえる「万能の天才」である。
僕は子供のころ、レオナルド・ダ・ビンチと平賀源内に憧れていた。
どちらも万能の天才であるが、僕がより好きだったのは源内の方で、彼が描いた西洋画に幼い僕は衝撃を受けた。
どうせならこういう人になってみたいと思い、僕は学校の勉強だけではなく、音楽や美術やさまざまなスポーツ、文化活動に積極的に手を出すようになった。
それでも僕なんかは何をやってもある程度までしかマスターできず、モノになったのは結局クイズだけ、みたいな感じなんだけど、由美さんは目指したそのことごとくでトップレベルの結果を出してしまうからすごい。
内容や細かいエピソードなどはさすがに個人情報なのでここではカッツアイするが、とにかくスーパースペシャルでアメージングでアンビリーバボーなのである。
その彼女から出た言葉が「集中力」なのだ。
たぶんこれはウルトラクイズだけではないんだろうなあ、と思う。彼女が打ち出した数々の結果はすべてその類まれな集中力から生み出されていたのだろうというのは想像に難くないからだ。
クイズにはたしかに「記憶力」も「瞬発力」も必要だ。しかし「集中力」こそが第一に必要な力だ。
だから今クイズを頑張っている人は、ここを同時に鍛えておくようにするのがいいだろう。
ではどうやって鍛えるのか。
それは単純。ある時間の範囲を決めて、その間中できる限り「集中する」だけである。つまり集中することに体を慣らすのだ。
よく「人間の集中力は、もって○○分」みたいなことが書かれている本があるが、あんなのは無視するに限る。
だいたい人間の体や脳の研究などは、ほとんど進んでいないと言っても過言ではないのだ。
たとえば、「ゴールデンタイム」というのを聞いたことがあるだろうか。
「午後10時から午前2時のゴールデンタイムに成長ホルモンが分泌されやすいのでこの時間はしっかりと寝たほうがいい」みたいなやつ。
これ、今では否定されているからね。
何でもそうなんだけど、誰にとっても有益で、誰にとっても効果が確実にあることは、少なくとも昔から民間伝承のような形を取って今に伝わっているはずなのだ。
そうではないものは、たとえ学会で認められたものであっても「実はまだ不確定なもの」か、「個人差があるもの」の2つで終わってしまうと僕は考えている。
ダイエットの本がなぜあれほどまで次から次へと世に出るのか。それはすなわち決定打がないからだ。誰がやっても効果がある方法なんてないのだ。
だから、「人間の集中力は、もって○○分」などという意見は完全に無視すること。
あなたが集中を続けようとするとき、実はもっと長い時間継続ができるかも知れないし、反対に無茶苦茶短い時間しか集中できないのかも知れない。
いずれであってもいい。スタートがどこであれ、鍛えることでそれはどんどん延びて行く。
クイズにおいて必要な2つ目の力は何か。
それは「解釈力」であると僕は考えている。
「解釈力」という言葉は僕が勝手に使っているだけで、別の言い方があるのかも知れない。意味は読んで字のごとく、「状況を解釈する力」のこと。もう少し詳しく書くと、「どんな状況でも、これは自分にとってプラスである、と解釈することができる力」である。
僕がこのことを説明するときによく使うのが「待ち合わせで相手が遅れてくる時」である。
普通、待ち合わせで相手が遅れて来るとあまりいい気はしないだろう。本気で怒り出す人も少なくないと思う。
僕も、たとえば電車や映画の時刻に合わせての待ち合わせで遅れて来られるとさすがにいい気はしない。ただ怒りはしない。こいつアホなんだな、と思って二度と一緒に行動しないと決めるとか、どうせメシはタダになるんだろうから(笑)何を食おうかなと考えたりするからだ。
単なる待ち合わせでは昔から僕は怒ることはまずなかった。
なぜならば「時間をもらった」と考えるように習慣づいていたからだ。
特に相手が30分以上遅れるのが確定したときは小躍りするような気持ちになる。本来はない、まとまった時間が手に入ったような気になったからだ。
そういうときは可能であれば必ず本屋へ行くようにしていた。
そしてそこでは普段手にしないような本をわざと読むようにしていた。
僕はこの本来手に入るはずがなかった時間を「天使がくれた時間」と呼んでいて、その時間に触れた本は特別な縁がある、と考えている。
それまで全く接点のなかった新しい世界を僕に示してくれるそれらの本は、もちろんその後のクイズや生活に生きていて、僕の知識の幅を広げてくれている。
これでわかると思うが、僕にとって「相手が遅れて来る」という状況は特にマイナスなことではない、ということだ。
これは大事なことで、ここから「状況そのものにはプラスもマイナスもない」という結論が導ける。
つまり、「状況そのものをプラスと思うかマイナスと思うかで気分は左右される。そしてそこで初めて現状がプラスまたはマイナスにもなる」ということなのだ。
この解釈力は心理学的にいう「認知的不協和状態における合理化」に近い。
代表例によく挙げられるのが『イソップ寓話』の「酸っぱいブドウ」の話である。
高いところにあるブドウを食べたくなって何度飛び上がっても届かないキツネが、最後には「どうせあのブドウは酸っぱくて不味いんだ」と言ってその場を去る、という話だ。
自分ではどうしようもないことに起因する不満を、それは価値のないものと解釈することで心の平安を保つ、という効果のことだ。
しかしこの合理化にはあまりいいイメージがなく、「自分に都合のいいように思う」だの「自分勝手な屁理屈」などと結論づけられることがもっぱらである。
しかしながら、合理化は勝負においては必要不可欠で重要な手続きであると僕は考える。
たとえばさっき書いた、「状況をプラスと思うかマイナスと思うかで、気分は左右される」では、最初の「思い」を生む力こそが合理化であり「解釈力」となる。そしてそれが「気分」を左右させるのだ。
「気分」は「メンタル」という言葉に置き換えて考えるとわかりやすい。
勝負事ではメンタルの揺れや乱れが起こらないようにするのが非常に大事、と僕はこのコラムで何度となく書いている。メンタルの揺れや乱れは負けに直結するからだ。
しかしながら心が司るメンタルは、その直前に脳が司る「解釈力」によってどうとでもなる性質があるわけである。だから勝負事では「心や感情を脳が支配すること」にもっと目を向けなければいけないのだ。
最後の1つである。これはわかりやすのではないだろうか。
メンタルと「解釈力」、そして「集中力」までも支えることになる力がある。
それは「体力」だ。
勝負にあたっては常に体は健康であり、充実させていなければいけない。
人は誰でも長時間動いていると疲れてくる。しかしその疲れを敵よりもより遅く出すようにしなければいけない。同じ速度で走ってきたと見せかけて、ゴール手前200mでダッシュして敵を一気に振り切る、そんな体力が必要なのだ。
いつかまた改めて書きたいと思っているが、僕には「心技体」という言葉が昔からあまりしっくり来ていない。
人間は絶対「心脳体」なのだ。そして「技」はその外にあるもので、心と脳と体を飾るものである、と僕は考えている。
「技」は華やかである。だからみんなそこばかり見てしまう。入口としてはとても大事で間違ってはいないんだけど、でもある程度その世界がわかったら「技」よりも「心」「脳」「体」を鍛える方にシフトすべきなのだ。
シンプルで地味なんだけど、でもそここそが勝負の分かれ目になるところでもある。
「とにかく集中力なのよ」
万能の天才、山口由美さんが言うんだから間違いない。
クイズにおける最大の「ツボ」はここだ。
ではまた来週の木曜日。