第6チェックポイント ブルーマウンテン (1989年9月12日)

170912

ブルーマウンテンのホテルの部屋と朝の風景。
自然に囲まれたとても綺麗な宿だった。

僕ら「怪しいウルトラ探検隊」(※1)はブルーマウンテンへとやって来た。
ブルーマウンテンといってもコーヒーとは何の関係もないし(それはジャマイカにある山の名前)、かといって人間にとって至る所にあるものでもない(それは「青山」)。
ここはシドニーから車で2時間ぐらいの所にある、別荘地として有名な「ブルーマウンテン国立公園」なのだ。
その名が示す通り青い靄が山々の全体を覆っている。これは密生しているユーカリの葉が出す成分が蒸発して日光に当たり、こういった状態を作り上げるのだという。

今回のクイズ会場は、この公園内にあるエコーポイントという所だ。
ここは「スリーシスターズ」という悲しい伝説のある岩を見下ろす高台のような場所で、こだまもよく返ってくる。
「エコー」というぐらいだから僕らはてっきり「大声クイズ」をやるものと思ったのだが…。

「あちらをご覧ください!」
ウォーッ!
見れば14台のテーブルがセッティングされている。
とうとう来た、憧れのウルトラハット!いよいよ早押しクイズである。(※2)

ウルトラクイズに憧れてクイズを本格的に始めてちょうど10年。ようやく僕はあのハットを被ることができるようになったのだ。
椅子に腰掛け、そしてハットを恐る恐る被ってみる。
少し重い。顎の下で紐で止めてみるがまだグラグラしてしまう感じだ。
ああ確かに僕は今、あのハットを被っているのだ!一体どんな風に映っているのだろう。似合っているのだろうか。
妙に一人でそわそわしてしまった。

ボタンに手を掛けてみる。
これだ。予想通りの形と大きさと高さである。(※3)
ただ、位置が少し手前にある感じがする。(※4)
でもいいのだ。とにかく早く押したい!

本番前はボタンの練習をする。トメさんの合図とともに一斉に押すのだ。
「一発目、絶対取ったんねん」
練習にも拘らず、僕は妙に気合いを入れた。
「ヨーイ、パン!(手を叩く音)」
パキッ!いてッ!
張り切りすぎた僕は力を入れすぎてしまい、思わず爪を割ってしまった。
うーん、どうしよう。まあええわ、何とかなるやろ。

クイズ形式は「エコー」ということで「二重音声クイズ」となった。(※5)
トメさんと小倉淳さんの2人が同時に読み上げる、全く違う2問を上手く聞き分け、2つとも正解できればOKだ。もし一方でも間違えば、たとえもう一方が正解でもダメという難しいクイズなのである。

このクイズで勝ち抜けることができるのは14人中何と7人だ!

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※1 「怪しいウルトラ探検隊」

当時の情報センター出版局のベストセラーである椎名誠さんの『あやしい探検隊』シリーズに引っ掛けている。

※2 憧れのウルトラハット!いよいよ早押しクイズである

ウルトラハットを「いよいよ!」と感じていたのは僕らだけで、ター兄ぃや正木、阿部姉などはすでにゴールドコーストの敗者復活戦で被っていたのだった。

※3 予想通りの形と大きさと高さである

僕はずっと家で「押す練習」をしていたが、その時に使っていたボタンと寸分違わなかった。これは嬉しかった。中学生の頃、ビデオを何回も見て京都寺町の電気屋街でボタンを探した甲斐があったのだ。

※4 位置が少し手前にある感じがする

その練習の時、肘を伸ばして押すクセが身についてしまっていた。なので仕方なく右半身を半身(はんみ)のような形で後ろにズラすスタイルを試すことになったのだ。

※5 「二重音声クイズ」となった

前年の『第12回』の南米フェゴ島で行われた敗者復活戦での形式。すでに出されている形式であるにも拘らず何の対策もしてなかったとは、やはりウルトラにもう出る気がなくなっていたことを表している。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

クイズ開始。
さあ一体どんな問題が来んのかかいな…と思っていたらいきなり第1問目を隣に座っていた永田さんが見事完答。「ウォー!」という雄叫びを上げながら1抜けを果たす。
さすが初めてのウルトラハットということでスーツを着て気合いを入れて来ただけのことはある。(この回以降、要所要所で永田さんはスーツを着るようになった)

あっけに取られている間もなく第2問目。
これは結局は秋利がミスってしまうのだが、何ともはやここまで(といってもまだ2問しかやってないが)全く問題のカケラもわからない。
よし、こうなったら作戦である。
両方を一度に聞こうとするからわからんのだ。どちらかを集中して聞いて、途中で意識的にもう一方にズラせばいいのである。

第3問目。

「オペラ『蝶々夫人』の恋のお相手は?」
「タバコの10個入り1包みを何という?」

僕にはこれがこう聞こえた。
「オペラ『蝶々夫人』1包みを何という?」

ポーン!
指が勝手に反応した。(※6)
押してしまったはいいが、「蝶々夫人」?「1包み」?

『蝶々夫人』で答になるものといったら「プッチーニ」「ピンカートン」「長崎」「三浦環」…
と、ここで僕は閃いた。
あ、そうか、これは洒落や!「ピンカートン」と「カートン」を掛けてあるのだ。
「カートン! ピンカートン!」(※7)
正解だった。僕は永田さんに続き、何とか2抜けになった。

及川、秋利、トシノリ、恒川、そして関根が通過した。これで勝者7人が決定した。
一気に7人も敗者か…と思いきや、
「続いて、次のクイズを行なう!」
たしかにトメさんは勝ち抜けは7人とは言っていたが、残りの7人が敗者になるとは言っていなかったのだった。

今度のクイズは「一問二答クイズ」である。
答が2つある問題が出され、やはり2つ完答のみOKとなる。
これで勝ち抜けられるのは6人。今度こそ敗者が決定する。


これもホテルからの景色。ホント、いいところ。

まさに「背水の陣」といった感じの7人だった。まず紅一点の阿部姉がいきなりシドニー行きを決める。勝者席の野郎どもが盛り上がったのは言うまでもない。
次いで山本ジュニア、カトちゃん、木村、そして絶不調のター兄ぃが抜けた。(まさかこの頃は誰も田川さんが「考えすぎのコンピューター」だとは知らなかったので、ただの絶不調だと思っていた)

残るは2人となった。
最年長の小室さんとギャンブラー正木だ。
見ている方も胃が痛くなってきそうな対決だったが、最後の最後、ついにギャンブラーが勝利をものにした。

シドニー行きの13人が決まった。
みんな嬉しいはずなのに何故が妙に切なかった。勝負の辛さ、別れの辛さ、つまりはウルトラクイズの宿命の辛さをここで強烈に味わわされたのだ。
人一倍心の優しい及川が思わず泣いてしまった。別れはとても辛そうだ。でも僕らはもう次の目的地へと向かわねばならない。
「行こう」
及川を促して僕もバスへ向かった。歩きながらいつしか僕も涙が溢れて止まらなくなってしまった。昨夜同室だった小室さんが落ちてとてもショックだったのだ。

小室周也さんと親しく話をさせていただくのは今回が初めてなのだが、実は僕は小室さんのことは中学生の頃から知っていた。
数々のクイズ番組に出場されて何度も優勝されているクイズの大先輩なのである。(僕は小室さんが出場された番組のVTRを何本か持っている)。
昨夜はその大先輩からいろんな貴重なお話を伺うことができたばかりだった。とても充実した時間を過ごさせていただいたことが忘れられない。
テレビを見ても十分わかる通り、時間が経つにつれて優しさが溢れて来る人だった。

後日シドニーにて小室さんから13人に宛てられたメッセージがスタッフの口から伝えられた。(※8)
僕へのメッセージは「早く病院に戻ってね」だった。
挑戦者は全員知っているがスタッフには病気のことをひた隠しにしていたので、「ヤバいヤバい」と思ったが、その短い言葉を聞きながらまた何か胸が一杯になってしまった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※6 指が勝手に反応した

これ、クイズやっていない人には何のこっちゃわからんでしょうな。
「指が勝手に押す」という現象はクイズをやっているとごくごく普通にある。たまに自分の指に向かって、「エエーっ」って言ったり、「何すんねん!」とか言ったりもする。

※7 「カートン! ピンカートン!」

たぶんスタッフ的には「ワンカートン・ピンカートン」と言って欲しかったのだと思われる。売れない漫才コンビみたいや。

※8 小室さんから13人に宛てられたメッセージがスタッフの口から伝えられた

このメッセージ、『第13回』では小室さんだけだったけど、他の回でも行なわれているようだ。
これねえ、思った以上に胸にくるのよ。平静ではいられないって感じだな。ウルトラでの別れとは、見ているよりも辛いのである。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ブルーマウンテンのクイズが終わった夕食時、僕らはスタッフから注意を受けた。
それは「歓声の上げ方」に対するものだった。
この場合の「歓声」とは、クイズ中に先に勝ち抜けた連中が後に続いた者を祝福する時に拍手とともに上げる声である。

『第13回』の放送を見てほしい。モーリーとブルーマウンテンでの歓声の上げ方と、それ以降のチェックポイントの勝者の反応が全く違うのがおわかりいただけたであろうか。(心霊現象みたいだな)
むしろシドニー以降は歓声を上げていないという感じにさえなっている。
それはここブルーマウンテンでのスタッフからの注意が原因なのだ。

実際には「注意」というよりは、言い方は「提案」に近かったような気がする。
「もう少し歓声の上げ方を変えてみようか」みたいな。
「いつもヒューヒューばっかりじゃ同じで面白くないからね」とも言われたな。
たしかに僕らもそう言われて思い返してみたら、他の回で「ヒューヒュー」みたいなのはないよなあ、ということになり、それ以降は大人しくしていようと決めた。

で、放送を見て、ブルーマウンテンの歓声は正直ウザいと思った(笑)
この前、再放送があって久しぶりに見たけどやっぱりウザかった(笑)
あの時のスタッフの提案は大正解である。僕らを抑えてくれてありがとう、という感じだ。

というわけで、次のシドニー篇は14日の夜に。

今夜のオマケ。

本邦初公開?
解答者席から見たスタッフの姿。ブルーマウンテンにて。

ようこんなん撮れるよなあ。
こんなことできるのはウルトラの歴史上、永田さんしかいません(笑)
よく怒られなかったよなー。
で、ちなみに永田さん、ここで1抜けした後にもしっかり撮ってたりする。


もう、凄いとしか言いようがありません(笑)