第8チェックポイント クイーンズタウン (1989年9月16日)

170916

第8チェックポイント、クイーンズタウン。
今回の旅でおそらく最も美しかった場所。

僕らはシドニーからニュージーランド航空でクライストチャーチへと向かった。
その機内で僕らはスタッフから注意を受ける。
「トイレは後ろのを使ってください。」
「はーい。」
フーン、敗者復活戦の勝者は前の方に座ってるということやな。さあ誰が座ってる?(※1)

0時20分、クライストチャーチへ到着。
ここからはバスに乗って目的地のクイーンズタウンに向かうのだ。所要時間は約7時間。ゆっくり寝ていられる。
目が覚めた時、まだバスは走っていた。すでに明るくなった窓の外に目をやると、そこは一面、ニュージーランドしていた。(わかるよね?この状況)
空が青くて山が白くて広い牧場とやたらいる羊。
ほんま、ニュージーランドに来たんやなあ…。
寝ぐせの髪の毛をハネさせたまま僕はひどく感激していた。

湖の畔にある、いい雰囲気のホテルに着いた。
しばらくしてから僕らは近ツリの加藤さんに連れられてロープウェイで山に登ることになる。山の頂には展望台があり、とても美しい景色が見れるのだという。
そう、これは「観光」なのだ。「観光」と書いて「拘束」と読むのである。
後で聞いた話だと、この時間はずっと監禁されている復活者のための自由行動の時間だったらしい。まさかそんな時間に僕らを市内に野放しにしておけないから山頂まで連れて行ったということだ。(しかし実際はスタッフ間の連絡ミスでわずか数メートルのニアミスをしていたらしい)

山頂観光の後は市内をブラブラすることになった。みんなめいめいに土産物を買っていたが、僕は「土産を買うと負ける」というウルトラクイズのジンクス(※2)を信じて何も買わずにいた。
しかしある店の前で立ち止まった。そこはスポーツ用品店のような店だった。店内にはかのオールブラックスのコーナーがあり、どーんとユニフォームが山積みになっていた。
こんなジャージ、欲しいなあ…。
と思って値札を見るとこれがまた安い。どうせこんなに安いなら、もう上から下まで揃えてやれ。僕はユニフォーム一揃えを抱えて店員に尋ねた。
「おっちゃん、全部でなんぼや?」(※3)
返ってきた答は僕が期待していた額の約2倍だった。
何?半パンとソックスで上着の倍以上もすんのか?
だが店のオヤジが出した値の方が当然正しかった。間違っていたのは値札を読み間違えていた僕の方だった。
一瞬買うのをやめようか、とも思ったが、モノがとても良さそうだし、何より気に入っていたので買うことにした。予想外の出費となってしまったが致し方ない。
まあええわ。ほなら、これ、明日のクイズで着たろ。損した分(実際には何も損をしてないのだが)思い出を作ったんねん。
これが「オールブラックスのユニフォーム」を着ることになったいきさつである。

さて、ニュージーランド初日の夜は、恒例の食事会があった。
これは毎年、挑戦者の人数が10人前後になった頃にスタッフ主催で行なわれる会食で、それまで一緒にテーブルを囲むことが一切ないトメさんや何人かのスタッフと初めて一緒に食事をする会である。
彼らにとってはこれで僕らの実態を把握し今後の演出に活かすことができる。また全体の絆を深めるという意味もあるのだ。
一方で僕らにとってもそれまで親しく話をすることのなかったトメさんたちと話をする初めてのチャンスでもある楽しいひと時なのである。(正直僕はこの会食までトメさんのことを怖がっていたのだ)
今年の会食の会場はクイーンズタウン市内にある「南十字星」というレストランだった。当然日本食だ。(※4)


今回の「観光」ではこのようにみんなにハンディカメラが渡され、
好き勝手に撮影をすることになった。
放送ではほとんど使われなかったから、
実はこれも僕らの実態把握の一環だったのかも知れない。

クイズ当日の朝がやってきた。
僕らは朝食後すぐにクイズ会場へ移動ということになった。湖の奥の方まで船で行くのである。
美しい山々の間を抜け船は進んで行く。細長い湖の端から端までを航行しようやく僕らは目的地へと着いた。そこはとても美しい牧場だった。

到着していきなり本番となった。(※5)
僕はトメさんにせかされながらオールブラックスのユニフォームに着替え、テーブルへと着いた。
あたりを見回す。見れば見るほど美しいところだった。世界は広い。つくづくそう思った。
羊を追うシープドッグのデモンストレーションに僕らが拍手を送っていると、
「もう1人、迷える子羊がいます。」
何?もう1人?…来たか…
遠くの方から永田さんが走って来た。手にはスーツケース、胸に怪しげなマークの入ったTシャツを着て背広にジーパン。(どんな格好や)

よかった…。僕にとっては心強い味方である。いつものように僕らはがっちりと握手をした。たった2日しか経ってないのにとても懐かしかった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※1 さあ誰が座ってる?

永田さんやん。なんか変装して乗り込んだとか乗り込まなかったとか。

※2 「土産を買うと負ける」というウルトラクイズのジンクス

これは昔からよく聞く話である。あと、「財布を落としたら負ける」も有名。

※3 「おっちゃん、全部でなんぼや?」

当然英語である。

※4 当然日本食だ

ここまですでに3ヶ国を旅しているのにもかかわらず、夕食は全て「中華」か「日本食」だった。慣れてないものを食べて体を壊してしまわないように、というスタッフの配慮だろうが、いい加減この2種類には飽きていた。

※5 到着していきなり本番となった

このパターンは後にも先にもここだけだった。放送をよく見ると、僕らが立った雛壇は向かって一番左が不自然に空いている。そこには永田さんの席が置かれるのだが、それを察知させないためのものなのだろう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

クイズのタイトルはここ、マウントニコラス牧場の名前に因んで「まぁうんと憎らしクイズ」というものだった。
1ポイントを取ると他にポイントを持っている者と対決クイズをすることができる。そこで勝つと相手のポイントがそっくり自分のポイントになる。合計3ポイントになると勝ち抜けだ。
対決クイズは別にやらなくてもいいが自分が2ポイントになった時や2ポイントの誰かがいる時、つまり対決クイズをやると通過できる時には必ずやらなければいけない。
ミスは1問休み。対決クイズでミスると自分のポイントだけがなくなってしまう。
こういった形式だった。

クイズが開始された。
早押しやったら大丈夫、と軽く思っていたのだが、ゲームが進んでいっても1問も正解できない。押しても押してもランプが全く点かないのである。答は割とわかるのだがとにかく指で負けてしまうのだ。
指で負けてる?
数ヶ月クイズをやっていない影響がこんなところで現れるとは。僕はマジで焦っていた。とにかくただ焦っていた。

そうこうしているうちにコアラ関根がリーチとなった。次の問題を取ったら一気に勝ち抜けのチャンスである。
取りたいなぁ…。
スランプに突入したのがわかったので僕は一気に抜けたかった。

「問題。ゴルフで、ハンディキャップ0 / (のプレーヤーを何という)?」
ポーン。僕のハットが上がった。ラ、ラッキー!
「スクラッチ」
ピンポンピンポン。ようやく初日が出た。
さあコアラとの対決である。

このとき僕は懸命に自分のクイズのフォーム(※6)を思い出していた。そう、僕は自分のクイズフォームを忘れてしまっていたのである。たしかもっと派手だったような…。

「問題。ビール工場はブルワリー。」
ラッキー。これは昔、佐原さんが僕に出してくれた問題や。どうせ答は「ワイナリー」やろ。とにかく「ワ」が聞こえたら押したんねん。
「では、ワ/イン工場は…」
僕は思いっクソ派手に押した。RUQSでよくやっていた「倒れ込み押し」となった。
「ワイナリー!」
正解だった。機内に次いで2度目となるトップ抜けの瞬間だった。

会心の勝利の後は例によって「悦楽タイム」である。
¡Muchas gracias!僕はレイギャルを抱きしめた。
ブルマンの時もそうだったが(※7)ここのレイギャルも僕を強く抱き返してくれた。おまけにこの子はとても綺麗だったので僕は満足だった。(※8)

奇跡の2抜けに恒川、出入りの激しいクイズを展開していたが最後は対決なしの3連取で永田さんが3抜けとなった。RUQSワンツースリーフィニッシュである。
みんな次々に抜け、残るはター兄ぃと阿部姉の最年長コンビとなった。
この頃になると誰も田川さんのことを絶不調とは思わなくなってしまっていて、むしろ「ター兄ぃ調子いいみたいやね。」などと勝者席で言っていた。
そして案の定、最後はター兄ぃか逃げ切ってしまった。キーウィはやはり今回も飛ばなかった。(※9)

阿部姉が落ちてしまい、とうとう野郎ばっかり10人となってしまった。
ウルトラ史上、上位10人が全て男というのは初めてである。さらに9人がクイズ研(※10)、6人が大学生と、かつてないクイズ猛者の集まりとなった。
これらに多少ビビリはしたものの、全く手を抜けない、そして抜かなくてもいい、真剣勝負のできる嬉しさに僕は密かに浸っていた。

次こそアメリカ本土上陸か、と思いきや、僕らはまだまだこの地にいることになるのである。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※6 自分のクイズのフォーム

もちろん「押す」フォームね。

※7 ブルマンの時もそうだったが

ブルマンのレイギャルはとてもお茶目な子で可愛かった。一番強く抱きしめ返してくれたのはあの子だった。

※8 おまけにこの子はとても綺麗だったので僕は満足だった

これはちょっとしたハプニングを生んでしまった。実はこの子、僕に急に抱きしめられたものだから舞い上がってしまったのだ。本来なら勝ったみんなに祝福のキスをするのだが、パニックになっていてそれを忘れてしまうのである。放送を見ると他の勝者への振る舞いが無茶苦茶ぎこちないのがわかる。
つまりこれ以降、「1人ヘンなのがいるから…」という注意がレイギャルに出されるのである。

※9 キーウィはやはり今回も飛ばなかった

『創造力』のコラムでも書いたが、『第13回』ではRUQSのジュニア、名大の吉野、トシノリなど後輩連中が先に負けることが多かった。その都度、残った我々先輩どもは「あいつらは伝書鳩として仲間に現状を伝えてくれるだろう」と言っていたのである。で、東大はというと、あやうく大先輩のター兄ぃが飛んで行きそうになっていた。
しかし田川さんは全然負けなかった。飛びそうで飛ばないことからいつしか彼はニュージーランドの飛べない鳥に引っ掛けて「キーウイ田川」と呼ばれるようになったのである。

※10 9人がクイズ研

残る1人は正木である。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

クイーンズタウンでのスタッフとの会食はドキドキものだった。
畳敷きの広い部屋での食事だったが、トメさんがクイズ研嫌いというのは知っていたので下手なことにならないように僕は彼から顔が見えない位置に隠れるように座っていた。

トメさんがいろいろ話をしているのはわかる。内容までは聞こえない。
しかしどうやら順番に挑戦者を呼んで前に座らせて話をしているようだった。
で、最後の最後になって、

「おい、マルタはどこ行った!」
あちゃー。とうとう呼ばれたかー。まあいつかは呼ばれるんだよなあ。
「はいはいここにおりますです。お声が掛かるのをお待ちしておりました。」
無茶苦茶調子いいことを言って僕はトメさんの前に座った。当然正座である。
「お前、ちゃんとクイズやってんのか?」
いきなり先制パンチである。
「いや、ちゃんとやってますよー。」
「じゃあ何で1抜けがないんだ?」
1抜けって。たしかに機内ペーパーでトップにはなったが、それ以降は1抜けは1回もなかった。でもよく考えたらドロンコは1抜けもへったくれもないし、夜中の奇襲も同様だ。ゴールドコーストは団体戦だし、モーリーはバラマキだし。結局二重音声だけなんだよなチャンスがあったのは。しかしそれでもトメさんの目には僕がマジメにやってないように映ったようだった。裏を返せば僕に異常に高い期待をしているという証拠でもある。

「いや、これからやるんですよ。」
とギャンブラー正木ばりのセリフを言うのが精一杯だった。
「明日はどうするんだ?」
「明日はもちろん1抜けします。」
「絶対か?」
「します。」
という会話が展開された。ニュージーランドの日本食レストランの2階の大広間で公開説教である。でもそのシチュエーション、改めて思い直してみると面白いよなあ。

で、次の日のクイズ。僕はかろうじて1抜けを達成した。正解数わずか2問で。
勝者インタビューではトメさんは言った。
「1抜け何回目だ?」
「1回目でーす。」
放送ではいきなりこのやり取りとなったのだが、実はその前夜にはこんないきさつがあったのである。

というわけで、次のショットオーバー篇は明日17日の夜に。


クイーンズタウンのクイズ後に撮影した1枚。
右に写っているのは挑戦者担当のADである我らが廣田さん。
廣田さんの雄姿を放送で確認したい人はゴールドコーストへ。
ルール説明の際に沖でロープを持って頑張っているのが廣田さんだ!
でもこれ、誰が撮ったんや?明らかに廣田さん込みの構図になってるやん(笑)