第4チェックポイント ゴールドコースト (1989年9月7日)

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小林さんの冥福を祈りつつ僕らはとうとうオーストラリアへとやって来た。

この地は僕にとっては小学生の時に最初に憧れた「外国」である(※1)。絶対に一度は行ってみたいと思っていただけにとにかく嬉しかった。

シドニーの空港からゴールドコーストへはバスに乗って行くことになった。というのもオーストラリアはこの時、航空ストの真っ只中で国内線が全て飛ばなかったのだ。
チェックポイントも本当ならシドニーの他にエアーズロック、パース、ダーウィンと、オーストラリアをくまなく巡るはずだった。(※2)

午前9時半、シドニーを出発。
目的地のゴールドコーストへ着くのは次の日の深夜0時半とのことだった。つまり約15時間もバスに揺られることになるのである。
「えーっ!」
みんなは悲鳴を上げた。そりゃそうだろう。誰だって15時間もバスに乗るのは嫌なものだ。
でも僕は違っていた。嬉しくてたまらなかったのだ。
長距離バスはすなわち南米の思い出そのものだ。チリのアリカ(※3)からサンティアゴまでの32時間、プエルト・モン(※4)からプンタアレーナスまでの33時間など、超長時間バスは嫌という程味わっている。
久しぶりの長距離バス。そして夜空には南十字星。アクシデントは僕にとっては嬉しい誤算だった。

ゴールドコーストはサーファーズパラダイスという所に僕らは予定通り夜中に着いた。ラマダホテルが僕らのアジトとなった。

ホテルに着いた日、僕らはそのラマダの一室に集まり密かにある計画を練っていた。グアムで奇襲をかけられたスタッフに仕返しをしてやろうというものである。
多分スタッフたちはまだ我々の顔を憶えていないはずだろうから、ここで混乱させてやろうというものだった。
僕らは服を揃えることにした。これならいちいち名札を見なければならないし、カメラの人もすぐには反応できまい。まあ多少困ってもシャレで済む範囲でもある。
早速みんなで近くの土産物屋へ行き、服を購入した。それが胸に「SURFERS PARADISE」と書かれたあのTシャツである(※5)。数は25着。志半ばにして倒れた小林さんの分も入っている。
また僕らはここで正式にクラブを作った。その名も「RAMADA CLUB」。会長は青野さん、副会長は秋利である。

ゴールドコーストはさすがリゾート地。
遊びで来るなら最高のところ。
クイズをするために来るところではない(笑)

翌7日がクイズ当日だった。僕らは海岸へと連れて行かれた。リゾート地というイメージとは程遠く、人が少なく閑散としている。9月は南半球ではまだ春先なのである。更にこの日は曇天で少し肌寒いくらいだった。

クイズの前に僕らは日本に向けてのビデオレターを作ることになった。1人ずつに20秒の時間が与えられ、日本にいる誰にでもいいからメッセージを送るというものだ。
急に言われてアドリブで対処したのだが、どうしてどうして、みんな芸達者である。とりわけ芸能レポーターばりにゴールドコーストを紹介した及川や、「日本にいる誰か」ということで小林さんにメッセージを送った吉野のビデオレターはとても面白いものだった。
ちなみに僕はこの中でただ一人、日本以外のところへメッセージを送ったのである。もちろん送り先はアルゼンチンだ。

さてここで行なわれるクイズは予想通りチーム対抗だったのだが、このビデオレターがチーム分けの手段として用いられることになる。
チームはメッセージの内容から次の4つに分けられた。

○健チーム : 健全な心を持ってニューヨークを目指すチーム
○仕チーム : 仕事や家庭や恋人が気になってイマイチ身の入っていないチーム
○遊チーム : ウルトラクイズは遊びついでに来ているという人々のチーム
○普チーム : それ以外の単なる普通の人たち(※6)

僕は何故か○遊だった。こんなに真面目で誠実な人間が何で○遊なのだ?
しかも○遊の面子はとんでもない人々ばっかりだったのだ。
志津姉とチームを組めたのはラッキーだったとしても、あとは宴会屋の吉田、スケベの山P、変態秋利、怪人恒川…。ま、まさに○遊だ…。
しかしながらこんな連中である。一瞬でチームは団結した。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※1 小学生の時に最初に憧れた「外国」である

図工の時間に彫刻でオーストラリア大陸を彫ったぐらい、小学生当時は憧れていた。

※2 オーストラリアをくまなく巡るはずだった。

なので『第13回』の本編では、行ってもいないのにエアーズロックが象徴的に映し出されている。スタッフはあの絵が余程欲しかったんだろうなあ、と思う。

※3 アリカ

縦に細長いチリの最北端の町。

※4 プエルト・モン

チリ中南部の都市。漁港で魚料理は美味いが、名物とされる煮込み料理が糞まずい。

※5 「SURFERS PARADISE」と書かれたあのTシャツである。

僕らはイタズラであの服を買ったのだけど、なんか放送を見ると、まるでスタッフサイドから支給された感が出ていて非常に悔しい思いをしたのを憶えている(笑) しかもクイズ中はその形式上、全部脱ぐ、だったから悔しさ倍増だった。

※6 ○普チーム : それ以外の単なる普通の人たち

どんだけ失礼やねん(笑)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

クイズ形式が発表された。どうやらライフセーバーごっこをやるようである。
6人のうちの1人が溺れ役をやり、その人を残る5人がボートを担いで救いに行く。
その溺れ役をボートに乗せ、浜まで連れて来て、今度は5人でそいつを担ぐのである。
で、最初に戻って来たチームに解答権が与えられる。そこで初めて一問多答クイズをやるのだ。
そのクイズに全員が正解を出せればチーム全員勝ち抜け、もし1人でもミスれば誤答で、また1からやり直し、という具合だ。

○遊チームはチーム結成後、すぐ予想問題を立てた。
予想問題を4問作り、それぞれ誰が答えるかまでも決めていたのである。(※7)
ちなみにその予想問題の4問とは、①オーストラリアの6州、②オーストラリアのコインに描かれている生き物、③オーストラリアの他に国内に時差のある国、④日本の国民栄誉賞受賞者、だった。

第1問目。我が○遊チームはこの日最初で最後の全力疾走をした。絶対に予想問題の①か③が出ると思っていたからだ。

ライフセーバーは途中まで上手くできていたのだが、最後の最後で隣の○普チームにかわされた。
「問題。オーストラリアには6つの州が…」
ちくしょう! やはり予想通りだ。
あと2チームか、と思っていたのに何故か○普は間違えてしまう。ラッキー。

次の問題は上手く○遊が解答権を取った。よし今度こそ予想問題③やろと思っていたのだが、何と全然毛色の違う問題が出題された。
「問題。唱歌『手のひらを太陽に』に出てくる生き物は全部で7つ…」

ゲっ。そんなもん知るか。まあええわ、どうせ回って来いひんやろ。
ところがそんな時に限って、
「オケラ」「ミミズ」「カエル」「アメンボ」「トンボ」
みんな正解する。さあアンカーの僕の番だ。
しかし全く答を考えていなかったので何も思いつかない。
昆虫…昆虫…。
まず頭に浮かんだのが「セミ」だった。でもまさかセミではないだろうし、それに下手にセミと言って後でみんなにバカにされるのも嫌だったし。結局僕は「ゴメン!」と一言だけ言ってチームは誤答となった。これでもう一度最初からやり直しである。(後でみんなにセミの話をしたらやはり笑われてしまった。この日以来秋利は何かにつけてセミセミと言うようになるし、ラマダクラブの飲み会では『手のひらを太陽に』が歌われるようになった。もちろん2番の歌詞の「ミツバチ」の部分は「セミ」に変えられて)

僕らはもう急いで抜けるのをやめにした。ラス抜けを目指すという大バクチに出たのである。
とにかく先に2チームに抜けさせて、敵が1チームになったところで一気に溜めていた力を出して逆転しようということだ。(※8)

○健チーム、○普チームが次々に抜け、とうとう○仕チームとの一騎打ちになった。
ここぞとばかりに○遊チームはパワー全開。疲れている○仕をものともせず、解答権をむしり取った。
「問題。日本で証券取引所がある都市は全国で8ヶ所…」
よし今度こそ大丈夫だ。絶対に抜けられる。
「東京」「大阪」「名古屋」
志津姉、吉田、山Pが正解した。
次の恒川には大得意の分野の問題である。
「京都」
正解だ。続いて秋利。
「広島」
当然正解。そしてアンカーの僕。僕は「伝家の宝刀」、とっておきのマイナーな答を言った。
「新潟!」
「正解!」
「やったー!」
○遊チーム、大バクチが見事成功。土壇場で逆転勝ちである。
大喜びで僕らはみんなの待っている勝者席へと向かった。みんな抱き合って喜んだ。

と、しばらくしてから僕は自分だけ勝者の証であるレイを掛けてもらえていないことに気づいた。
「あ、忘れてた。」
レイギャル(※9)のところへ行ってみると、やはり彼女が残り1つとなったレイを持って困っている様子。
「よう、ネエちゃん。ワシやワシ。レイ掛けてえな。」
などという下品なことは言わず。紳士たる僕はニコっと笑って一言。
「please」
彼女は可愛く微笑んで僕にレイを掛けてくれた。(このゴールドコーストのレイギャルは実に可愛い。今回のツアーの全レイギャルの中で僕は一番好きだ。はっきり言ってタイプである。)

そして彼女は僕の頬に濃厚な(はっきりと濁音で表現できる)キスをしてくれた。
位置的に言ってそこは勝者席の端の後ろの方で、誰もこっちを見ていない。
うわー、可愛いなー、と思っている時にそんなキスをされたものだから、僕は思わず彼女を抱きしめた(※10)。そして彼女の頬にお返しのキスをしたのである。

と、その時だった。
「おい!誰だそこでキスしてる奴は!また長戸か!」
トメさんの大チェックが入った。
みんながこっちを向いていないのはトメさんがもうコメントを始めていたからだったのだ。(※11)
唇へキスしようとお互いの首を傾け始めたとき(※12)に水を差された感じとなりとても残念だった。(※13)

しかしトメさんもひどいものだ。「また長戸か」はないでしょう。だって僕がレイギャルを襲い続けるのはこれが最初なのだから。(※14)

とにかくこのクイズはしんどかった。
本放送は何事もなかったようにやっているが、クイズ終了後、恒川や片山は砂浜で倒れてしまったのだ。(とはいえ、今では「恒川の痙攣」(※15)はギャグ化しているが)

僕はずっと恒川のそばに付いていたが(※16)、実のところは僕も相当参っていた。
しかし病気であることを隠している手前、下手にドクターの厄介になるわけにはいかなかった。この頃の僕はまだ肝炎の影響で眼球が黄色がかっていたのである。目をまともに見られると一発でアウトだったのだ。

しかし収録が終わり、ホテルの部屋に戻った時、とうとう僕は倒れてしまった。
激しい運動のための筋肉痛や疲労、そして明らかに別の理由から来る胸の痛みが僕を襲っていた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※7 予想問題を4問作り、それぞれ誰が答えるかを決めていたのである。

むちゃくちゃ健全やん(笑)

※8 先に2チームに抜けさせて、敵が1チームになったところで一気に溜めていた力を出して逆転しようということだ。

これがスタッフに怒られた。本放送でも映っているが、僕らはダラダラ歩いていたのである。トメさんもコメントで僕らをチクっと刺していた。しかしその気持ちもわかるけど、こっちはこっちでこればっかりは画面映えよりも抜ける方に本気を傾けたいから、ダラダラするのも仕方なかった。
しかしながら『第13回』のツアーでスタッフに怒られたのは、これが最初で最後となった。僕らの姿勢が伝わったのか、これ以降、何をやっても怒られることは最後まで一切なかった。

※9 レイギャル

レイを渡してくれる、チェックポイントの地元の女の子。しかし「ギャル」て。今じゃ死語。

※10 僕は思わず彼女を抱きしめた。

本番中です(笑)

※11 みんながこっちを向いていないのはトメさんがもうコメントを始めていたからだったのだ。

だから本番中だっての。

※12 唇へキスしようとお互いの首を傾け始めたとき

これ本当。お返しのキスを彼女の頬にしたあと、ヘンに見つめ合ってしまい、彼女は首を傾けながら目をゆっくり閉じ始めた。惜しかったー。『第13回』で心残りがあるとするならここだけだなー。

※13 水を差された感じとなりとても残念だった。

本番中ですから。

※14 僕がレイギャルを襲い続けるのはこれが最初なのだから。

と『創造力』では書いたが、これはスタッフサイドが正解だった。僕は見落としていたんだけど実は機内ペーパーのタラップを降りた後の最初のレイギャルにすでに僕はハグをしているのだった。いやー、無意識無意識。

※15 恒川の痙攣

勝った直後の砂浜で恒川は倒れて痙攣をする。彼は限界ギリギリだったのだ。最後の問題を答えるためのライフセーバーでは恒川は志津姉を乗せたボートの前部を引っ張っていたのだけど、途中で力尽きて水に沈んだ。しかしボートが彼の上を通過する時、恒川はずっと水面の方を向いていたのだ。つまり僕らから見たら水の中でこっちを向いている土左衛門の上をボートがスーッと進むように見えたわけ。この一瞬の出来事がとても滑稽で、砂浜での痙攣のマネとともにずっと恒川ネタとなっていた。
ってよくよく考えたらひどい話だなー(笑)

※16 僕はずっと恒川のそばに付いていたが、

秋利がトシノリの先輩であるように、僕は恒川の先輩なので僕がずっと彼のそばにいたのだ。
と、ここで少しは好感度を上げておこうと思う。(ジャック・バウワー風に)

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

さてそんな頃、砂浜では○仕チームによる敗者復活戦が行なわれていた。
形式は「ダウトクイズ」で、トランプゲームの「ダウト」をクイズに応用したものだ。
勝ち抜ける方法は次の2つである。
① ウソの答を言って、誰からも「ダウト」が掛からなかったとき
② ホントの答を言って、誰かに「ダウト」を掛けられたとき
これ以外の場合はダメで、その時は後方で寝そべっている金髪女性(実はスタッフ)の周りを回って来るというペナルティーを受ける。

なお今回、ウルトラ史上初めてワイヤレスの早押し機が使用された(※17)。(これは今もって謎である)
ここで復活できるのは6人中4人だ。

まず最年少木村が抜け、阿部姉が続いた。
ギャンブラー正木は苦しんだがそこはさすが勝負師、上手くウソをつき通し見事3抜けとなる。
残る3人は、東大OBの田川さん、大阪の銀行員井端、そして名大クイズ研の吉野だ。
キツネとタヌキの必死の攻防は最後、田川さんの大ウソにより幕を閉じた。

井端と吉野が散った。
井端は僕と秋利との「昭和40年トリオ」の一角。クイズも割と強いしルックスも性格も抜群である。もし先まで残っていたら間違いなく多くのファンがついただろう。そんな男だった。落ちてしまって残念でならなかった。

翌朝6時、僕らはゴールドコーストを後にした。
しかしまあ、ここではよく遊んだものだった。ウルトラのツアー中、ここでの数日が最も遊び歩いていたように思う。
海には入れなかったがパラセーリングはやった。ショッピングやカジノなどへも行って楽しんでいた。(○遊の面子は伊達にその看板を背負ってはいなかった。カジノへ行った6人中4人が○遊だったのである。ちなみにカジノでの大負け大王は山PのマイナスA$100。2位は僕でマイナスA$60だった)

ところで、クイズの前にも発表されたのだが、次の目的地は「モーリー」とのことだった。
「モーリーってどこや?」
ゴールドコーストといい、モーリーといい、僕の知らない所ばっかりである。
しかし何が悲しいといって、「次はゴールドコーストです!」とか「次はモーリーです!」と言われると何もわかってないくせに「やったー!」とか「きゃっほー!」と調子を合わせてしまう自分のサガが悲しい。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

※17 ウルトラ史上初めてワイヤレスの早押し機が使用された。

これはどうやらエアーズロックで使うものだったらしい。気球に乗ってクイズをやるとかやらないとかスタッフから聞いたことがある。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

僕らはこのゴールドコーストでクラブを結成したわけだが、こんな早い段階で本当の「仲間」となっていた。
僕が毎日つけていた本物の日記があるが、その9月6日(ゴールドコーストに到着した日)にはこう記している。

多分明日はクイズだ。あんなにクイズが好きだったのに、今とてもやりたくない。もちろん自分が落ちるかも知れないからというのもあるが、それ以上にこの新しい仲間と別れたくない、そんな気持ちの方が大だからである。

ボルチモアで秋利が「こんなに楽しい日はない」と表現した、それと同じ線上にあるものだ。
ウルトラクイズでは確実に仲間と出会える。出会えるからこそ別れもある。仲間にならなかったら叩き落すことも造作もないことなのだが、仲間ゆえに生まれてしまうちょっとした心模様が勝負の綾を生んでしまう。
ウルトラクイズは単にクイズができるだけでは絶対に勝てないものなのだ。他の要素、とりわけ精神的なタフさは必要不可欠なのである。

というわけで、モーリー篇は9日の夜に。

ゴールドコーストでボートを操縦する及川。
ファン向けのサービスショットです!(って違うか)